研究課題/領域番号 |
15K10870
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
寺西 慎一郎 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (90649360)
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研究分担者 |
守田 裕希子 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30725669)
森重 直行 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40346565) [辞退]
柳井 亮二 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (10346554)
木村 和博 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60335255)
鈴木 克佳 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授(特命) (90325217)
園田 康平 九州大学, 医学研究院, 教授 (10294943)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結膜線維増殖 / アレルギー / 特異的治療 |
研究実績の概要 |
眼表面における結膜線維増殖は、春季カタルでの巨大乳頭形成を誘導し、角膜の障害による重篤な視力低下を引き起こす。また、失明原因疾患の第一位である緑内障においても、結膜線維増殖は緑内障術後の予後不良因子である濾過胞不全の原因となる。我々は、アレルゲンや防腐剤等の低分子ハプテンが眼表面での内因性炎症を生じ、この炎症が結膜線維増殖を来している可能性を考え、一連の病態における分子機序の解明を行っている。 内因性炎症を誘発する物質として、点眼薬の防腐剤として最も多く使用されている塩化ベンザルコニウム (BAC)に焦点を絞り、研究を進めている。実際に、BACを含む抗緑内障点眼薬の長期使用は、緑内障濾過胞不全の危険因子として知られており、失明予防のためにも可及的速やかにその機序の解明が必要である。 初年度は、角膜上皮細胞および結膜下に存在するテノン線維芽細胞の両細胞において、BACが濃度と時間の双方に依存して細胞障害を生じることを確認した。また、テノン嚢線維芽細胞の三次元培養を行い、線維化の指標となる細胞収縮にBACが関与することを明らかにした。 本年度は、初年度の結果を踏まえ、実際の眼表面の組織構成により近づける目的で、角膜上皮細胞及びテノン嚢線維芽細胞の共培養を行い、BAC投与の影響を検討した。これまで、二重チャンバーを用いた培養では、内側のチャンバー上の培養細胞の形態学的評価が困難であると考えられてきた。今回、申請者らは、生体下にて細胞形態が観察でき且つ経時的に撮影可能なシステムを構築し、本研究に用いた。本システムを使用した検討により、BACによりテノン嚢線維芽細胞が筋線維芽細胞へ形質転換する事を明らかにした。また、角膜上皮細胞とテノン嚢線維芽細胞の両細胞間には、相互作用があることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
眼表面を構成する角膜上皮細胞及びテノン嚢線維芽細胞の共培養を行うにあたり、両細胞を培養下で直接観察出来るシステムを確立した。本システムを使用し、BACによるテノン嚢線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換を検討し、形態学的並びにタンパク質の発現変化を確認した。この形質転換時には、角膜上皮細胞とテノン嚢線維芽細胞の両細胞間で相互作用があることが明らかになった。相互作用を制御する因子に関しても解析を進め、特異的な因子の候補を得た。得られた結果については、現在投稿準備中である。 初年度において、テノン嚢線維芽細胞の収縮制御に関し、all-trans-retinoic acid (Liu Y, Teranishi S. et al., 2015) 及びレチノイン酸受容体作動薬 (Liu Y, Teranishi S. et al., 2015) の作用に関する報告を行っている。本年度は、その制御因子について検討を行い、最終年度にその結果を得られる予定である。また、本研究の最終目的であるin vivoでの線維化制御に関して、既に濾過形成動物モデルの作製が完了していることから、実験計画は概ね順調に進んでいると考えられる。 本年度は、本研究の成果の一部を、全国および地方学会で報告した。また、一般市民に対しても健康講座を開催し、研究で得た知見を交えて緑内障に対する啓蒙活動を行った。
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今後の研究の推進方策 |
BACによるテノン嚢線維芽細胞の筋線維芽細胞への形質転換において、角膜上皮細胞およびテノン嚢線維芽細胞間の相互作用に関して、細胞培養上清をMulti-plexを用いて炎症性サイトカイン等を網羅的に検討する。各細胞の遺伝子発現変化についても、DNA/RNAを溶出後、次世代シークエンサーを用いて、ゲノムおよびmRNAの発現変化を網羅的に解析する。 また、研究計画書に従い、結膜上皮細胞、テノン嚢線維芽細胞における免疫細胞の関与について検討する。自然免疫の側面からは、Toll様受容体(TLRs)に注目する。まず、発現しているTLRs をPCRにて確認し、その結果によって得られた発現に対し、作動薬/拮抗薬の効果をサイトカインの産生量などを指標として検討する。TLRsについて期待された結果が得られない場合は、獲得免疫の側面からも検討する予定である。以上のようにして、眼表面全体におけるBACによる結膜線維化形成、収縮の分子メカニズムについて多方面からの解明を行う 最終的には、既に作製が完了している濾過胞形成動物モデルにおいて、上記の結果より得られた作動薬/拮抗薬、および我々の報告したレチノイン酸受容体作動薬を用いて、線維化制御による濾過胞形成作用を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも試薬及び細胞培養に使用する消耗品の使用量を抑えたが、研究計画の遂行が可能であった。そのため、当初の予定より消耗品費を抑えることが出来た。また、サイトカインや細胞における遺伝子発現の解析に使用する試料を準備したが、まとめて解析した方がより良い群間比較ができると考えたため、解析を最終年度とした。これらの理由から、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
網羅的な細胞上清のサイトカイン並びに細胞での遺伝子発現の解析のため、複数の機器並びに試薬を用いる必要がある。そこで、機器使用料および試薬購入に使用する。また、in vivoでの最終評価のため、動物の購入にも使用する予定である。
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