研究課題
加齢黄斑変性(AMD)は先進国における55歳以上の主要な失明原因である。しかしその根本的な病態メカニズムはわかっていない。近年、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor; HIF)が様々な疾患の病態生理に関与していることが明らかにされつつある。そこでAMDの病態形成におけるHIFの役割を解明するために、Cre/Loxp技術を利用しHIFやその制御因子であるVHL(von Hippel Lindau protein)を標的とした成体誘導網膜色素上皮(RPE)細胞特異的コンディショナルノックアウトマウスを作製し解析を行った。その中で、HIFの異所的な安定は網膜変性を誘導することが明らかとなり、AMDにおける新たな治療標的となることを見出した。治療法の確立されていないAMDの新規治療法の開発は多くの患者にとって非常に有用なことである。また網膜変性疾患により一度視細胞が障害されてしまうとその視機能は取り戻すことができないため、疾患初期から介入の可能性があるHIF阻害の意義は大きいと考える。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通りAMDの病態形成におけるHIFの役割を明らかとしつつある。作製したRPE細胞特異的HIFおよびVHLコンディショナルノックアウトマウスの表現型を解析することで、RPEにおけるHIFの過剰発現が、網膜変性を誘導することを見出した。また、網膜切片の組織学的な検証や代謝変化を検証することにより、HIFの過剰な発現がグルコースや脂質の代謝に影響を与え、その結果網膜変性が引き起こされることを明らかにし、HIFを阻害することによるAMDへの新たな治療の可能性を見出し、論文報告した(Kurihara T, et al. eLife 2016)。さらに、網膜変性モデルに対する既知HIF阻害剤であるトポテカンの投与実験を行い、その治療的抑制効果を確認した(三輪、栗原ら. 第120回 日本眼科学会総会)。
引き続きHIF、VHLさらにVEGFなどのRPE特異的コンディショナルノックアウトマウスを作成および解析を進めることでAMD病態形成における低酸素応答遺伝子群のさらなる役割の解明を目指す。またHIFの細胞内代謝へ与える影響を分子生物学的な手法を用いて検証を行っていく。さらにHIFを阻害することによるAMDへの治療的介入の可能性を検討するために、AMDモデルマウスへの既知のHIF阻害剤の投与実験を行う。また既知HIF阻害剤の多くは細胞毒性が強くそのままでは臨床応用が困難であるため、新規HIF阻害剤の開発が必要である。そこで新規HIF阻害剤の開発を目指し天然物や低分子化合物のライブラリーを用いたドラッグスクリーニングを行い、得られた候補物質をAMDモデルマウスへ投与しその効果を確認する。
少額であり、研究消耗品の購入に充てられなかった為
来年度分と合わせて研究用消耗品の購入費に充てる予定
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (33件) (うち国際学会 11件、 招待講演 5件)
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