本研究は,新規光感受性物質である水溶性カチオン性クロリン誘導体のTONS504と660nmの単波長LED光照射装置用いた光線力学的抗微生物化学療法(photodynamic antimicrobial chemotherapy: PACT)による抗病原微生物薬に頼らない新しい角膜感染症治療法の確立が究極の目的である。 本年度は,白色家兎角膜感染症モデルによるin vivoでのPACTの有効性の検討を行った。黄色ブドウ球菌感染眼に対するPACTの有効性が確認できた。日本白色雄性家兎を用い,角膜損傷黄色ブドウ球菌(ATCC 25923)感染モデルを作製した。複数回のPACTを施行することで感染制御ができ,角膜感染症に対するTONS 504-PACTの有効性を示すことができた。ほかの菌種での効果を今後継続的に確認する予定である。 in vitroの研究として,糸状真菌に対するPACTの効果は,F. solaniに有効であったが,A. fumigatusには効果がなく,菌種によってPACT効果が異なることがわかった。さらに,アカントアメーバに対するPACTが,栄養体に対して非常に有効であることも確認できた.シストに対しても抑制効果が確認できた。 これまでの研究でTONS504-PACTについて以下のことを明らかにした。 1)メチシリン耐性黄色ブドウ球(MRSA)すなわち薬剤耐性菌に対して有効である。2)他の病原微生物の殺菌に必要な最小TONS濃度とLED照射条件の検討で,グラム陰性細菌と真菌はグラム陽性細菌と比較し高濃度のTONS504が必要である。3)アシクロビル耐性HSV-1(2種類)に対しても有効である。4)培養ヒト角膜実質細胞への有意な細胞障害性はない。5)PACTの緑膿菌に対する経時的抗微生物効果の出現には一定の時間を要する。
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