視神経は網膜神経節細胞(RGC)の軸索であり、中枢神経である。哺乳類では、視神経軸索が障害を受けると、その軸索が再伸長することもない。実験動物で、視神経傷害部に末梢神経片を自家吻合移植するとRGCの一部は軸索を再生する。しかしその再生数は極めて少なく、網膜-視覚中枢神経の1対1のシナプス結合(Retinotopy)も再構築されない。代表者が開発した視神経切断端への血管柄付き末梢神経移植術は、髄鞘の再形成と軸索の再伸長が促進され、長い視神経軸索の再生が見込める。本課題では再伸長する視神経軸索の数を増やし、かつ、高度な視覚機能の回復に欠かせない、retinotopyの再生を目指して研究を進めてきた。 最終年度では、(1)retinotopy再構築に向けた分子レベルの情報を蓄積するため、retinotopyを司る分子rat ephrin A2と、rat Eph-A5のDNA断片の単離を試み成功した。現在、視神経軸索再生過程の各段階でin situハイブリダイゼーションによる、両者の転写物質の局在解析、細胞一個レベルでの定量解析を進めている。(2)一方で、血管柄付き末梢神経移植法の改良を進めた。視神経切断端への血管付き正中神経移植法に加えて、微小血管吻合術を用いた坐骨神経移植手術法の検討、血管付き顔面神経移植手術法の検討を行った。それぞれ、移植片内に視神経軸索が再伸長していることが確かめられ、本実験系の技術面での広がりが得られた。(3)さらに、これまでの研究で視神経傷害後の早期から網膜の脂質構成に変化が起こっていることが分かってきた。フォスファチジルセリン群は、その種類により正常網膜での発現に差があり、視神経傷害前後で発現変化も異なった。さらに、ドコサヘキサエン酸を構成脂質成分とするホスファチジルエタノールアミンは、視神経傷害によって網膜全層にわたって発現が上昇することが判明した。
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