研究課題/領域番号 |
15K10901
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
岡田 アナベル・あやめ 杏林大学, 医学部, 教授 (50303962)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ぶどう膜炎 |
研究実績の概要 |
本研究では抗炎症療法の重要な分子標的の一つと考えられるnuclear factor-kappa B(NF-kB)に注目し、難治性眼炎症疾患に対するNF-kB 分子特異的な眼局所療法の開発を目的として、1) NF-kB阻害剤であるDHMEQの硝子体内投与によるエンドトキシン誘導実験的ぶどう膜炎(EIU)の抑制効果の検討、2) DHMEQの硝子体内投与による実験的自己免疫性ぶどう膜炎網膜炎(EAU)の抑制効果の検討、3) DHMEQ による網膜色素上皮細胞株のケモカイン産生の抑制効果の検討、4) DHMEQによるNF-kB 分子の核内移行の阻害効果について検討を行った。 1)、2)についてはEIUおよびEAUラットに対するDHMEQ硝子体内投与の有効性を評価する前段階して、EIUおよびEAUの病態に重要な炎症性細胞の一つであるマクロファージに対するDHMEQの有効性についてin vitroにて検討を行った。ラット腹腔内滲出細胞(PEC)を回収、 炎症誘導因子としてリポポリサッカロイド(LPS)で刺激培養、同時にDHMEQを添加し、TNF-a、IL-6、IL-1bの産生抑制効果について検討を行った。その結果、DHMEQを添加した群では濃度依存的に上記サイトカインの産生抑制効果がみられた。来年度はこれらの結果を参考にDHMEQ硝子体内投与量を決定し、その有効性を検討する。3)、4)については、ヒト網膜色素上皮細胞株であるARPE-19からのMonocyte Chemoattractant Protein 1(MCP-1)の産生がDHMEQにより抑制され、さらに免疫染色によりPECを用いた検討においてNF-kB 分子の核内移行がDHMEQにより阻害されていることが確認された。以上の結果からDHMEQのin vitroにおける抗炎症効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の実験計画では、1) DHMEQの硝子体内投与によるEIUの抑制効果の検討、2) DHMEQの硝子体内投与によるEAUの抑制効果の検討、3) DHMEQ による網膜色素上皮細胞株のケモカインの産生抑制効果の検討、4) DHMEQによるNF-kB 分子の核内移行の阻害効果の検討を予定した。 1)、2)についてはEIUおよびEAUラットに対するDHMEQ硝子体内投与療法における投与量などの条件設定を目的に実験的ぶどう膜炎の病態進行に重要な炎症性細胞の一つであるマクロファージに対するDHMEQの有効性についてin vitroにて検討を行った。ラットの腹腔内滲出細胞(PEC)をリポポリサッカロイド(LPS)で刺激培養時にDHMEQを添加し、各種サイトカインの産生抑制効果について検討したところDHMEQを添加した群では濃度依存的に上記サイトカイン産生抑制効果が確認できた。3)、4)については、ヒト網膜色素上皮細胞株であるARPE-19をTNF-aで刺激培養するとIL-8やMCP-1が産生されることが知られており、DHMEQを添加することでMCP-1、IL-8の産生が有意に抑制された。また免疫染色によりPECにおいてNF-kB 分子の核内移行がDHMEQにより阻害されていることが確認された。 今年度の結果を踏まえ、平成29年度ではDHMEQの硝子体内投与量を設定し、EIUおよびEAUに対する炎症抑制効果がみられるかさらに検討を行う。以上から平成28年度の研究課題は中程度達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の実験計画では、1) DHMEQの硝子体内投与によるエンドトキシン誘導実験的ぶどう膜炎(EIU)の抑制効果の検討、2)実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)を用いたDHMEQの硝子体内投与によるEAUの抑制効果の検討、3) DHMEQによる網膜色素上皮細胞細胞株におけるNF-kB 分子の核内移行の阻害効果の検討の3点を施行予定である。 平成28年度の結果から、in vitroの実験系においてマクロファージに対するDHMEQの炎症抑制効果がみられた。この結果を踏まえ、1) についてぶどう膜炎の代表的な動物モデルであるEIUをリポポリサッカロイド(LPS)を用いてラットに誘導し、DHMEQ を硝子体内に投与して前房水中の炎症性細胞の浸潤、蛋白濃度、サイトカイン、ケモカインの発現量を検討することでDHMEQの眼局所における炎症抑制効果について検討を行う。2)についてEAUを誘導したラットに対してDHMEQを投与し、EAUに対する炎症抑制効果がみられるかさらに検討を行う。 3)については平成27および28年度の実験においてヒトRPE培養細胞株であるARPE-19をTNF-a刺激時にDHMEQ を付加することによりARPE-19上におけるICAM-1の発現、IL-8、MCP-1の発現が濃度依存的に低下することが確認されている。そこでDHMEQ によるARPE-19のケモカイン産生抑制効果の作用機序について検討をするため、TNF-a刺激ARPE-19細胞にDHMEQを加えることでNF-kB 分子の核内移行の阻害効果がみられるか蛍光顕微鏡を用いた免疫組織染色にて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の実験計画では、1) DHMEQの硝子体内投与によるエンドトキシン誘導実験的ぶどう膜炎(EIU)の抑制効果の検討、2) DHMEQの硝子体内投与による実験的自己免疫性ぶどう膜炎網膜炎(EAU)の抑制効果の検討、3) DHMEQ による網膜色素上皮細胞細胞株のケモカインの抑制効果の検討、4) DHMEQによるNF-kB 分子の核内移行の阻害効果の検討の4点を予定した。特に1)、2)のDHMEQの硝子体内投与条件設定のため、炎症性マクロファージに対するDHMEQの有効性に関するin vitroの条件検討に時間を要したため,DHMEQの硝子体内投与の実験を実施できなかった。以上の結果より当初予定していた使用額に至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は1) EIU、EAUに対するDHMEQの硝子体内投与による炎症抑制効果の検討、2)DHMEQによる網膜色素上皮細胞株におけるNF-kB 分子の核内移行の阻害効果の検討を予定している。 1)EIU誘導のためLPSをラット皮下に投与、その直後にDHMEQを硝子体内投与(DHMEQ群)、対照としてDHMEQの基剤投与(基剤群)を行い、LPS投与24時間後に前房水と虹彩を採取、前房水中の蛋白濃度・細胞数を測定、IL-1・IL-6をELISA法にて測定、両群間で比較検討を行う。EAUに対しては免疫後9-12日後にDHMEQ投与、その後EAUの臨床スコアを評価、虹彩、網膜を採取し、組織上精中のサイトカイン、ケモカインをELISA法にて測定、炎症抑制効果を評価する。2)についてはTNF-a刺激ARPE-19におけるDHMEQ によるNF-kBの核内移行の阻害効果を免疫組織染色にて評価する。
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