ヒトiPS細胞から角膜内皮細胞を誘導し、免疫特性を解析してきたが、再現性に課題があったため、角膜内皮細胞の前段階のiPS細胞誘導神経堤細胞の免疫学的特性の解析を中心に進めた。誘導神経堤細胞は、動物実験で創傷治癒能を持つことが知られており、さらに近年では神経堤の発生異常に伴う先天巨大結腸症のモデル動物の治療にも有効であることが報告された。ヒトへの臨床応用を行う前に、その免疫学的特性を評価することは重要である。 誘導神経堤細胞はヒトiPS細胞よりもHLA class Iの発現が低く、HLA class IIと共刺激分子(CD80、CD86)の発現がなかった。さらに、誘導神経堤細胞と健常人由来のT細胞をインターロイキン2とCD3/CD28刺激抗体の存在下で共培養すると、CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の増殖が抑制された。 神経堤細胞の免疫学的抑制能に関わる分子としては、DNAマイクロアレイと定量PCRの結果より、TGF-β2が候補として考えられた。フローサイトメトリーおよび免疫組織染色の結果より、神経堤細胞の細胞表面にmembrane-bound TGF-β2の発現が確認された。T細胞抑制試験において、TGF-βシグナル伝達の阻害物質であるSB431542を投与することにより、誘導神経堤細胞のT細胞抑制能が解除された。以上より、誘導神経堤細胞がもつT細胞抑制能には、TGF-βが深く関与していることが示唆された。 以上より、誘導神経堤細胞は免疫原性が低く、T細胞の増殖抑制能を持つことが分かった。これは、ヒトへの移植を想定した場合に、炎症反応や拒絶反応を起こしにくいと予想され、移植細胞としては有利な結果である。 以上の内容を第121回日本眼科学会総会でポスター発表を行い、学術展示優秀賞を受賞した。その受賞講演として、第71回日本臨床眼科学会で口頭発表した。今後は誌面での発表を予定している。
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