研究課題/領域番号 |
15K10911
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
内尾 英一 福岡大学, 医学部, 教授 (70232840)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アデノウイルス / 流行性角結膜炎 / 治療 / 抗ウイルス薬 |
研究実績の概要 |
アデノウイルスは今世紀に入ってから従来の分離中和法による血清型ではなく,PCR法に基づいたウイルスDNAシークエンスの直接解析による分類法が広く行われるようになり,それによって52型以降の新型が相次いで報告されるようになった。新型の中にはキメラウイルスの53型,8型変異株とされていた54型(Ishiko H, et al: J Clin Microbiol 46: 2002-8, 2008)。また最近,国内の結膜炎から分離され,D種に属する15/29型間の組み替え型である56型(Kaneko H, et al: J Clin Microbiol 49: 484-90, 2011)などがある。そこで,分離された新型アデノウイルス株を用いて,アデノウイルス増殖抑制薬への反応性を検討した。対象薬剤はアデノウイルス増殖抑制効果が確認されたザルシタビン,スタブジン,インターフェロンアルファ及びガンマ用いた。これらに増殖抑制効果が見られるかをin vitroで検討した。MTS法によって,薬剤の培養細胞への細胞毒性であるCC50を測定してから,薬剤を一定時間細胞へ作用後に定量PCR法でアデノウイルスDNAを測定して,EC50の算出を行いその効果を比較した。用いたアデノウイルスはそれぞれの53, 54および56型の臨床分離株である。その結果,ザルシタビン及びスタブジンはいずれの型にも濃度依存性の増殖抑制効果が見られた。しかし,インターフェロンについては,アルファは54型と56型には有意な増殖抑制作用があったが,53型にはなく,ガンマは54型にのみ、濃度依存性の抑制作用がみられた。これらの結果からD種に属するこれら国内で感染を生じている新型アデノウイルスに対して,抗HIV薬には既報と同様の有効性がみられたが,インターフェロンには限定的な作用がみられ、これらには差があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の計画にあった新型アデノウイルスに対する、各種薬剤の増殖抑制作用の比較研究は,53,54及び56型という各年度の代表的な流行性角結膜炎起炎型の臨床分離株を用いることによって、薬剤への反応と、型間の作用の相違がわかり、十分な成果を得ることができたと考えられている。新型アデノウイルスは52型以降数が年々増加しており、これら以外にもキメラウイルスとされるD種の64型,70型,C種の57型などの最近結膜から分離されている新型がいくつかあるが,これらについては、標準株も含めて株の入手ができずに、今回は抗ウイルス作用の対象に含めることができなかった。これからの研究で可能ならばさらに比較をしたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
28年度は,「アデノウイルス治療薬の点眼製剤における保存性及び有効性の解析」を主たる研究課題として進めていく。アデノウイルスの結膜炎を特に生じる型はD群の8,19及び37型,B群の3型やE群の4型などであることは知られており,研究グループのこれまでの研究によってそれらに有効な薬物があることは報告してきた。しかし,これを実際に治療する上で問題となるのは投与経路として点眼薬にした場合,長期使用のために保存を行った場合,抗アデノウイルス作用を維持できるかどうかということがある。薬剤としては抗アデノウイルス作用があり,臨床使用が可能なスタブジン,インターフェロンアルファおよびガンマ,ガンシクロビルおよびhCAP-18を用いる。いずれも点眼製剤として複数濃度を調整する。ウイルスはアデノウイルス3,4,8,19a及び37型の標準株を使用し,0日,7日以後1週間間隔でウイルス浮遊液に作用させ,既報と同様に,1週間A549細胞を培養後にウイルス力価をreal-time PCR法で定量する。抗ウイルス作用の指標であるEC50が経時的にどのように変化するかを比較検討することにより,製剤化した場合の特徴を求める。また,「アデノウイルス角結膜炎におけるウイルス学的及び涙液サイトカインの解析」を計画している。これは2015年にみられた大規模なアデノウイルス角結膜炎で,従来みられない角膜潰瘍などの重症な角膜合併症を生じる症例がみられたが,この流行における症例から結膜擦過物とシルマー法で採取した涙液検体を用いて,ウイルスの同定と涙液サイトカインの多項目同時測定を行う。ウイルスは患者結膜から擦過した検体を用いる。アデノウイルスPCR-sequence法による,ゲノムのシークエンス解析を行う。また涙液サイトカインを多項目について検討し、臨床各期におけるその動態を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウイルス性結膜炎の涙液サイトカイン動態解析の研究を行う予定であったが,症例の発症が続いて、検体採取が予定よりも長期間にわたったため,昨年度内に解析を行う体制に至らず,そのために,多項目同時測定用サイトカインmicro beads arrayの測定キット用試薬を購入するのが翌年度(2016年度)になったため,研究費の未使用分が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
ウイルス性結膜炎の臨床分離検体はほぼ必要数が得られたために,2016年度には行えなかった追加の涙液サイトカイン解析を実施できる見込みである。また全ゲノム解析も合わせて行って、さらに詳細な検討を進める計画である。
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