研究課題/領域番号 |
15K10914
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
須賀 晶子 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (70450400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 網膜 / グリア細胞 / 再生 / 傷害 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
成熟した神経細胞には再分裂能がなく、成体神経組織に存在する幹細胞の分裂は非常に限られているため、中枢神経組織の障害は回復が非常に困難である。網膜では神経細胞が障害されるとミュラーグリア細胞が増殖を開始し、神経細胞へと分化することが示されているが、増殖・分化能は動物種によって非常に異なっている。例えば魚類は大部分のミュラーグリア細胞が増殖して網膜全層が再生されるのに対して、マウス・ラットといった哺乳類を用いた実験では一部のミュラーグリア細胞のみが増殖し、分化する神経細胞の種類も限られている。内在性細胞による神経細胞の再生は将来的には神経変性疾患の進行抑制につながると期待され、また組織内での分化細胞の維持機構の理解がより深まると期待される。 本研究は遺伝子を導入によりミュラーグリア細胞の増殖および神経細胞の再生を促進することを目指して行っており、当初は成体マウスの網膜をモデルに使う予定だった。しかし成体網膜組織への遺伝子導入効率が低く導入遺伝子による影響の確認が困難だったこと、また生後2週間以内のマウス網膜に対するin vivo 遺伝子導入でミュラーグリア細胞の増殖と神経細胞への分化促進が報告されたことから、本年度はラットミュラーグリア細胞由来の細胞株と幼弱マウス組織を用いて遺伝子導入による細胞増殖への影響を検討した。ミュラーグリア細胞株に対してこれまでに検討した候補遺伝子からは、既に先行研究があるAscl1の増殖促進作用をさらに大きく変える因子は得られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
培養細胞株への遺伝子導入用にプラスミドベクターを再作成し、遺伝子導入効率を再検討した。網膜組織への遺伝子導入はサンプルごとのばらつきが大きく、有意な違いがあるかどうかの検討に予定よりも多くのサンプル数が必要だった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの報告からミュラーグリア細胞の増殖と分化転換を制御すると考えられるAscl1遺伝子を比較対照として、ほかの候補遺伝子単独及び組み合わせによりさらに細胞増殖が促進されるかどうかを検討したが、顕著な差が得られなかったため、細胞増殖については現時点ではAscl1による制御が最適と考えられる。Ascl1を用いた網膜神経細胞再生についてはゼブラフィッシュおよび幼若マウスでの先行研究がある。一方、これらの因子を過剰発現させても増殖しないミュラーグリア細胞が見られることから、ミュラーグリア細胞間で増殖抑制の程度に差があることが予想される。また幼若マウスで見られるミュラーグリア細胞の増殖が成体マウスではほとんど見られないことから、抑制因子の発現量・発現パターンは網膜組織の成熟に伴って変化すると考えられる。網膜に対する再生促進因子の遺伝子導入量や発現促進には限界があるため、先行研究以上に細胞増殖と神経細胞への分化を促進するには抑制因子の解除を検討する必要があると考えられる。そこで次年度は以前のマウス系統間の比較で選別されたミュラーグリア細胞で発現する増殖抑制因子候補の発現を幼若マウスと成体マウスで比較し、発現量・発現パターンに差がある遺伝子に対する発現抑制または薬剤による機能抑制を行って成体マウスで神経細胞の再生が促進できるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養細胞への遺伝子導入にはトランスフェクション試薬とラボで作成したウイルスベクターを用いたため受託生産よりも費用が抑えられた。光障害モデル作製用に個別に購入予定だった照明器具を共通消耗品として購入できたため使用額が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
ミュラーグリア細胞に対する細胞増殖促・神経分化進因子候補に加えて、細胞増殖抑制因子候補についてもその機能と抑制した場合の効果について検討を行うため、新たな試薬の購入に使用する。
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