研究実績の概要 |
皮下脂肪組織は、浅筋膜で浅層と深層の解剖的に明瞭に構造が異なる2層に分けられているが、解剖的構造を超えた、浅層・深層間の生理的、細胞学的な部位特異的機能差はよく分かっていない。我々はこれまでにヒト皮下組織の浅層と深層それぞれの脂肪細胞間にストレス耐性や脂肪分化能・骨分化能に違いが見られることを見出した。また、生体皮下脂肪組織の組織学的解析では浅層脂肪細胞が深層脂肪細胞と比べて有意に脂肪分化度が高いことを明らかにした。しかし、その差が何によって形成されているかはこれまで不明だった。我々はこの不明点を明らかにするために、ヒト腹部皮下脂肪組織から浅層、深層それぞれから細胞を分離して解析した。解析する細胞としては、Sugiharaらにより報告された天井培養由来前駆脂肪細胞(ceiling culture-drived preadipocytes, ccdPAs)を用いた。浅層ccdPAsは深層ccdPAsと比べて長期継代後も高い脂肪分化能を維持し脂肪分化マスターレギュレーターであるPPARGを高発現していた。この原因としてエピジェネティクス機構の一つであるDNAプロモーター領域のCpGサイトメチル化率を測定した。PPARG transcript variant 1でプロモーター領域においてASCsの方がccdPAsと比較して有意にメチル化率が高かった。これはccdPAsがASCsと比べて脂肪分化しやすいことの原因と考えられた。一方、PPARG transcript variantt 2, PPARG transcript variant 3のプロモーター領域のDNAメチル化の差はみられなかった。すなわち、浅層脂肪細胞はPPARGが低メチル化により発現しやすい状態であるが、PPARGバリアント内ではメチル化に差がありさらに詳細な解析を要すると考えられた。
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