研究課題/領域番号 |
15K10942
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
古賀 沙緒里 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80590249)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | FICZ / AhR / 創傷治癒 |
研究実績の概要 |
以前より,我々は FICZ が表皮細胞の遊走を増強し,創傷治癒を促進することを見出しているが,その作用機序は不明であった.そこで,本研究では,FICZ がどのような機序で細胞遊走を促進しているのか検討を行った.予備実験の結果,FICZ は AhR の代表的な内因性リガンドであるにも関わらず,siAhR を用いた検討により AhR を介さない可能性が示されている.そこで,まず AhR の関与を検討した.はじめに,既知の AhR 阻害剤である CH-223191 が FICZ を阻害する濃度の検討を行った.FICZ が AhR 依存的に発現誘導することが知られている CYP1A1 mRNA を指標に検討した結果,10 μM の CH-223191 により FICZ 誘導性の CYP1A1 mRNA 発現が有意に阻害されることを確認した.そこで,10 μM の CH-223191 により FICZ の細胞遊走促進作用が抑制されるか検討した結果,FICZ による細胞遊走促進効果に影響を与えないことが明らかになった.さらに,AhR の外因性リガンドでは FICZ のような細胞遊走促進効果が認められないことも確認した.したがって,FICZ による細胞遊走促進効果に AhR が関与しないことが示された.次に,AhR 高感受性マウス (C57BL/6) と AhR 低感受性マウス (DBA/2) で FICZ による創傷治癒促進効果に違いが出るか検討した.その結果,AhR の感受性に依存せず,FICZ は両系統のマウスで創傷治癒を促進することが明らかになった.以上より,FICZ による細胞遊走促進作用は AhR 非依存的であることが証明された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は FICZ による細胞遊走促進作用に AhR が関与するか検討した.その結果,予定通りの実験により AhR が関与しないことを in vitro および in vivo で証明できた.また,この結果を裏付けるために,FICZ 以外の AhR リガンドを用いて細胞遊走促進効果が認められるか検討したところ,用いた外因性リガンドでは細胞遊走促進効果がないことも確認した.したがって,FICZ の作用機序の解明のうち,AhR の関与を否定する結果は十分に得られたと考えている.次年度までに作用機序の解明を目指しているが,様々な受容体やシグナル分子との関連も含めてさらに検討中である.また,今年度予定していたヒト皮膚への外挿はまだ検討できていないが,次年度の計画である FICZ が産生される意義を明らかにする目的で,FICZ の代謝関連物質に FICZ が有する細胞遊走促進効果が存在するのか検討している.まだ,予備検討の段階ではあるが,FICZ の作用は特異性が高い可能性が示されており,引き続き検討を行っていきたい.
|
今後の研究の推進方策 |
まず,FICZ の作用機序の解明に関しては,AhR の関与を否定する結果は得られているが,実際に何を介しているのかは明らかにできていない.今後は,実際の作用機序を解明できるように尽力したい.創傷治癒と関連する受容体やシグナル経路などが多数報告されているため,それらと FICZ が関与するのか検討していく予定である.また,FICZ が生体内で産生される意義を明らかにするために,FICZ を産生できないマウスの作製を予定している.現在はこの予備実験として,FICZ の代謝関連物質による細胞遊走促進効果を検討している.FICZ は既知の内因性 AhR リガンドであるが、その FICZ が AhR を介さずに生体でどのような役割を担っているのか,しっかり明らかにしていきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
妊娠および出産のために,年度末に実験が実施できなかったため.
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度に実施できなかった実験および次年度予定している実験に使用予定である.本年度および次年度は継続した研究計画が多いため,引き続き研究を遂行していく予定である.使用予定物品も大きな変更はない.
|