研究課題
我々はこれまでに,ダイオキシン受容体として知られているAhRの内因性リガンドであるFICZが,マウス皮膚の創傷治癒を顕著に促進することを明らかにしている.本研究では,その分子メカニズムの解明を目指していたが,今年度ついにその一端を明らかにすることが出来た.FICZはスクラッチ刺激下でのみ,MEK/ERK経路を活性化しており,MEK/ERK阻害剤によりFICZの創傷治癒促進効果は消失することが明らかになった.また,FICZ処理時にMEK/ERKの上流であるEGFRおよびRAFの活性化は認められないことも示された.本研究期間を通して,FICZにAhRを介さない作用機序が存在しており,皮膚の表皮細胞において,創傷時のみMEK/ERK経路を活性化し,細胞遊走を促進していたことを明らかにできた.当初の目的である作用機序の解明は達成できたと考えている.一方,FICZが生体内で産生される意義の解明も目指したが,実際の創傷部位でFICZが一過性に産生されるのか,検討することが出来なかった.それに関しては,今後の課題だと考えている.しかしながら,FICZが創傷時に細胞遊走を促進して治癒を速めていることを示せたことから,皮膚における役割の一端を解明できたと考えている.また,興味深いことに,FICZの親化合物であるトリプトファンやFICZの代謝産物,さらにはトリプトファン代謝産物などの化合物による細胞遊走への影響を検討したが,FICZのように安定した細胞遊走促進効果は認められなかった.これは,FICZの活性が特異的であることを示唆している.さらなる機序の解明に向けても,非常に興味深い知見であり,より詳細にメカニズムを追求していきたい.
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Journal of Investigative Dermatology
巻: 137 ページ: 2217-2226
10.1016/j.jid.2016.10.050.