我々は毛包再生を実現させるにあたり、低侵襲かつ最小限の採取材料を用いた実験系の確立を目指している。同時に現在ヒトの皮膚では、創傷を負った際に瘢痕を伴いながら皮膚が再構築されるが、毛包含め皮膚付属器を再生させることができれば、完全なる皮膚の再生も実現しうる可能性がある。毛包形成においては、上皮・間葉、双方の要素が必要である。我々は間葉成分として皮膚真皮由来の線維芽細胞を用い、通常は毛包誘導能力を持たないこの細胞が、培養方法の工夫を加えることでその能力を獲得する可能性を見出した。すなわち数継代の培養を経た線維芽細胞を、非接着培養皿にて無血清培地で培養し細胞凝集塊を形成し、この凝集塊と表皮細胞を用いると毛包が誘導されることが判明した。皮膚線維芽細胞は容易かつ様々な部位より採取することができ、また少量の細胞から十分量の細胞が培養可能である。本研究ではこの細胞凝集塊に対し、未分化性や多分化能をはじめとした細胞の性質、そして移植実験に適した細胞条件などを検索することを目的とした。 マウス皮膚由来線維芽細胞より非接着培養にて細胞凝集塊を作成後、様々な幹細胞において発現している未分化性の指標である膜表面マーカーや転写因子の発現を確認したところ、iPSやMSC、DPなどにおいて確認されているSox-2、Oct-4、CD133、cxcr4などが細胞凝集塊において強く発現していた。毛包発生に重要とされるWntシグナル関連遺伝子については、Wnt5a、Wnt5b、βcatenin、Lef-1の発現が上昇していた。多分化能の評価に関しては、MSCの分化誘導と同様の方法で細胞凝集塊の分化誘導を行ったところ、骨、軟骨、脂肪の各系統への分化能を有することが分かった。 予定年度途中の研究終了のため、毛包再生実験に適した細胞条件については未だ検索できていないが、今後同研究室にて継続して追求していく予定である。
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