研究課題/領域番号 |
15K10949
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
林 礼人 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10365645)
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研究分担者 |
水野 博司 順天堂大学, 医学部, 教授 (80343606)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 端側神経縫合 / 神経移植 / 神経再生 / シュワン細胞 / 人工神経 |
研究実績の概要 |
我々は端側神経縫合法が無細胞化神経へのシュワン細胞供給方法になりえないかと考え基礎研究を開始した。1cm長のCold preservation処理にて作成した無細胞化神経を移植神経とし、その両端に端側神経縫合を行うことで、効果的にシュワン細胞を移植神経内に遊走させられる事を確認した。さらに、端側神経縫合によってシュワン細胞を遊走させた1cmの無細胞化神経を5mm長の坐骨神経欠損モデルに移植すると、シュワン細胞を含まない移植神経と比較して、より旺盛な軸索再生を観察出来た。 無細胞化神経に対する端側神経縫合を用いたシュワン細胞付加するこの手技は、すぐにでも臨床応用が可能だが、シュワン細胞が無細胞化神経内へ遊走するのに十分な期間やシュワン細胞を充填する移植神経の長さの限界などの課題が残存した。そのため、移植神経2本を端々縫合で連結して2cm長にし、端側神経縫合するモデルを加え、無細胞化神経内へのシュワン細胞遊走範囲や遊走関連蛋白の変化などを多角的に検証した。 今回は①コントロール群(坐骨神経に接さない様に筋肉内に移植)、②1本の両側端側神経縫合群、③2本連結の両側端側神経縫合群、④2本連結の両側端側神経縫合および側々神経縫合群の4群を作成した。コントロール群ではシュワン細胞の遊走は認めず、②群では移植後4週目までに移植神経内全域に豊富なシュワン細胞の遊走が観察された。そして、③群の2本連結の両側端側神経縫合群では、移植後4週の時点では移植神経の末梢側から優位にシュワン細胞の遊走が観察された。また、PCRの結果においても③群では②群と比べS100の発現量は多くなく、p16INK4aも①群から③群の2週モデル、4週モデル共に群間での差はみられず、③群の2本連結の長い移植神経の場合、両側端のみの端側神経縫合では移植後4週まででは、シュワン細胞の遊走は不十分であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①群(コントロール群)ではシュワン細胞の遊走は認めず、②群(1本の両側端側神経縫合群)では移植後4週までに移植神経内全域に豊富なシュワン細胞の遊走がみられた。そして③群(2本連結の両側端側神経縫合群)では、移植後4週までに②群と同様な移植神経内全域へのシュワン細胞遊走はみられず、移植神経の末梢側端側神経縫合部から優位にシュワン細胞の遊走が観察された。長い無細胞化移植神経へのシュワン細胞遊走において移植神経の中枢側・末梢側がシュワン細胞の遊走に何らかの影響を与える可能性が考えられた。また、PCRの結果からも③群は②群と比べS100の発現量は少なく、p16INK4aにおいては、移植後2週の時点で②群に比して①、③群の発現量は少なく、移植後4週では③群が他群と比して発現量が2倍程度であった。以上の結果から、現在の進捗状況の中からは③群の2本連結の両側端側神経縫合群の移植後4週までには、両側端の端側神経縫合部からのみではシュワン細胞の遊走は不十分であった。 また、初年度に実験計画で遂行予定であった④群(2本連結の両側端側神経縫合および側々神経縫合群)におけるNestin-GFPマウスモデルでのシュワン細胞遊走の評価が出来ていない。大きな理由として実験に用いているマウスが25~30gと小さいことである。さらにNestin-GFPマウスの端側神経縫合のドナー神経となる坐骨神経を可能な限り露出・展開しているが、3個所を神経縫合する場合に、遠位側の神経縫合部位が坐骨神経から分枝した後の細い神経に移植神経の遠位端を神経縫合しなければならず、口径差が存在してしまうため手術手技の確立が得られていない。引き続き④群作成の同手技の確立を目指すと共に、移植後6週、8週の長期群の作成および、シュワン細胞の評価およびそれぞれの群における適切なprefabricate期間の検討を行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は初年度の遅れを取り戻すために、前述の④群(2本連結の両側端側神経縫合および側々神経縫合群)の安定した手術手技の確立を目指す。さらに、各群の端側神経縫合長期群(6週、8週)モデルによる無細胞化神経内へのシュワン細胞遊走範囲や関連蛋白の遺伝子発現量の変化などの得られた結果から適切な各々の端側神経縫合における無細胞化神経内へのシュワン細胞遊走期間を設定する。 続いて①から④群の適切なprefabricate期間を用いてシュワン細胞を遊走させた移植神経の軸索再生効果を確認するために、軸索全てが蛍光発色するThy-1-YFP16マウスに5mm長の坐骨神経欠損を作成し、それぞれの移植神経を欠損部へ神経移植する。さらに、比較対照群としてBalbCマウスから採取した2本の坐骨神経を連結したIsograft群を追加し、③群(2本連結の両側端側神経縫合群)と④群(2本連結の両側端側神経縫合および側々神経縫合群)の長い移植神経モデルとの比較が臨床応用における自家神経移植とシュワン細胞充填無細胞化神経移植に相当すると考え、③群および④群の実用性を評価する。また、加えて無細胞化神経内に脂肪幹細胞を注入する群(幹細胞移植群)を加えて既存の一般的な自家移植や盛んに研究が進められている幹細胞移植例について軸索再生能力の差異を比較検討する。
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