研究課題/領域番号 |
15K10955
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
梶川 明義 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (70260495)
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研究分担者 |
井上 肇 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (60193603)
菅谷 文人 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (70569524)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 培養表皮 / 乳房再建 / 再生医療 / 色素細胞 / 乳頭乳輪再生 / メラニン / 色素沈着 / 新規キャリア |
研究実績の概要 |
本年度乳房全摘出患者数例よりIC取得後、術中の余剰皮膚の提供を受けた。得られた皮膚は、大量の脂肪組織が付着していたが、細切を十分に行うことで除菌ならびに酵素消化も可能であった。酵素消化後の皮膚から得られた遊離細胞は、通常の培養表皮移植に用いるための採皮とは異なるため若干収率は低い傾向にあったが、表皮細胞の培養は十分可能であった。培養された表皮細胞には、色素細胞も温存されており、位相差顕微鏡下においてその存在が容易に確認できた。 得られた培養表皮細胞がシート化され、このシート化された培養表皮の剥離が試みられた。乳頭乳輪面積は通常の培養表皮移植に比べると面積的に小さいため、培養表皮細胞をシート状に剥離するためには、特殊なキャリアが必要となる。そこでポリL乳酸不織布に植物由来多糖体をラミネートした全く新たなキャリアの開発を同時に考案した。その結果、この多糖体ラミネート量を変化させることで、シート剥離性とシート移植性のハンドリングを両立するキャリアも完成した。以上の結果から、乳頭乳輪周囲への移植のための培養表皮の作成技術、移植のための新規デバイスの準備ができた。 一方で移植法シミュレーションとして、ヌードマウスを用いて前臨床研究を行った。麻酔下のヌードマウス背部の消毒後、ローター型グラインダーを用いてアブレージョンして薄削した。その後、上記で得られた培養表皮シートを新規キャリアとともに移植し、キャリアの剥離後ワセリンを塗りこんだ非固着性ガーゼで被覆したのちタイオーバー固定をした。術後1日で薄削した移植部位はすでに表皮が生着しており、正常皮膚部分にまで割り込んで移植をした培養表皮は乾燥壊死して脱落し、極めて明瞭に移植の成果が目視出来た。現在も問題なく生存中であり、2カ月をめどに屠殺後組織化学的検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
乳房全摘後の患者は、整容的面から大変大きな精神的苦痛を伴う。乳房再建は、この苦痛を改善する効果的な治療手段であるが、再建した乳房には乳頭乳輪が存在しない。そのため乳頭乳輪の再建は、片側の健常乳房から乳輪部を一部採皮もしくは陰部皮膚を採皮して移植する方法あるいは刺青を入れる方法が主体である。しかし前者の乳輪皮膚、陰部皮膚の移植は侵襲も大きく再生医学的手法による治療技術の開発が望まれていた。今回の研究は、この問題を解決する一つの手段である。これまでの移植用培養表皮作成技術と異なり著者らの培養技術は、表皮細胞だけでなく色素細胞も温存培養できることである。そのため移植された培養表皮は、自然な体色となるため、著者らの表皮細胞培養法は特に尋常性白斑などの治療に優れた技術であった。一方で移植時に不適切な患部の皮膚の剥離は、移植後の瘢痕治癒の原因となり、醜形を残す原因となる。カラーマッチする部位から採皮した皮膚を用いて色素細胞温存培養表皮を作成しても、醜形を残す移植法では、期待される成果は得られない。今回用いたアブレージョン後による培養表皮移植術は術後の経過も良好であり、傷跡もまったく目立たない手技である。本研究で具現化しようとする治療技術は、移植部位の侵襲も少なくドナーサイトの侵襲もほとんどないという再生医療技術を駆使した理想的な手術方法といえる。 また、今年度の研究で色素細胞の増殖を調節することで培養中に一定程度の色素沈着量を調整できる培養手技が開発される可能性も出ており、乳輪部やその他の色調不一致部位へのカラーマッチ技術は当初の計画以上に推移している。同時にこれまでは表皮の培養には動物由来成分が必須であったが、共同研究者の開発した多血小板血漿を用いた新規培養技術は、動物由来成分を一切使わず、患者への潜在的な危険性を回避できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に申告した科学研究費交付申請書に則り、予定通り平成28年度の研究が遂行できると考えている。研究予定に変更はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は、予定していたよりも手術件数が少なく、思うようにサンプルの確保ができず、それに伴い、学会発表の回数も少なかったため、一部資金は次年度繰越となった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度と比較し、サンプル提供も増加見込みのため、培養表皮の作製への使用、および、各種学会発表への出張資金として使用する予定である。
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