研究課題
脂質メディエータースフィンゴシン1-リン酸(S1P)は、血管機能および免疫機能の調節において重要な役割を果たす。 本研究では、遺伝子改変マウスを用いた解析・細胞生理学的手法を用いた解析を行い, S1P2型受容体S1P2による急性肺損傷(ALI)時の血管バリア機能破綻防御の分子機構を解明し,さらにALIに対するS1P2選択的アゴニストの有効性を検討する。リポポリサッカライド(LPS)を気道内に投与して誘発したALIモデルにおいて、エバンスブルーの肺血管外漏出量,肺組織の乾燥重量/湿重量比の測定(肺水腫)および気管支肺胞洗浄液(BALF)中の総タンパク濃度の測定により定量的に評価した。また,②肺胞の炎症細胞浸潤を,BALF中の総細胞数,白血球数と白血球分画の解析により,③肺全体の炎症性サイトカインの遺伝子発現をリアルタイムPCR法により評価した。S1P2欠損マウスでは、LPS気道内投与による肺損傷は、野生型マウスに比較してより高度であった。LPS投与後の肺湿重量の増加およびBALF中のタンパク濃度と好中球の増加および肺におけるサイトカイン発現もS1P2欠損マウスでより高度であった。次に、S1P2欠損マウスで観察されるALIの増悪にNOの関与を検討する目的で、NO合成酵素阻害薬L-NAMEを投与した。L-NAMEは、S1P2欠損マウスで見られるLPSによる急性肺損傷の増悪を改善した。以上の結果から、S1P2がNO合成の抑制を介して血管内皮バリア機能維持を含む機構により急性肺損傷を軽減する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
LPS投与による急性肺損傷モデルにおいて、S1P2欠損マウスでは野生型マウスに比較してより高度であった。また、このS1P2欠損マウスで観察されるALIの増悪にNO合成酵素が関与していることが示唆された。LPS気道内投与による急性肺損傷モデル以外のLPS静脈内投与モデルにおいても、S1P2欠損マウスでは野生型マウスに比較してエバンスブルーの肺血管外漏出量は高値であったが、LPS腹腔内投与による敗血症モデルや盲腸結紮穿刺モデルの検討が遅れている。
S1P2欠損マウスで観察されるALIの増悪にNO合成酵素が関与が認められたので、次年度以降、S1P2欠損マウスで観察されるALIの増悪にeNOSあるいはiNOSのどちらのNOSが関与するかを、各NO合成酵素アイソフォームに選択的な阻害薬やノックアウトマウスを用いて明らかにしたい。また、骨髄移植実験あるいは新たに樹立する臓器特異的S1P2欠損マウスを用いて、S1P2-KOマウスで観察されるALIの増悪に骨髄由来細胞(マクロファージ)あるいは非骨髄細胞(血管内皮細胞)のどちらに発現するS1P2が関与するかを明らかにしたい。
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十全医学会雑誌
巻: 125 ページ: 印刷中
J. Biol. Chem
巻: 290 ページ: 6086-6105
doi: 10.1074/jbc.M114.601484
巻: 123 ページ: 114-118