研究実績の概要 |
出血性ショック後の臓器障害や予後は, まだ十分に改善されていない。出血性ショックにおいてNOは臓器障害の機序に関与していると考えられている。出血後の時期によって以下のようにNOの産生が変化する。早期には, endothelial NOS (eNOS)の活性が低下し, NO産生が低下し,晩期には炎症カスケードの誘導により, inducible NOS (iNOS)が過剰に活性化されてNOが過剰に産生される。これが重症化に関与しているとされる1)。 NOドナーやNOS阻害薬の経静脈的投与によりNOの産生をコントロールすることが試みられているが,まだ臨床応用までには不十分である。吸入NOは臨床経験がある薬剤であるが,出血性ショックの治療に用いられた報告はない。全身的な血管拡張がない濃度の吸入NOは,肺血管だけでなく全身的に作用し,静注したNOドナーと比較し,微小血流を改善し心筋の梗塞層を減少すると報告されている2)。出血性ショックラットに対して吸入NOの生存率に対する効果を検討した。輸液蘇生後の出血性ショックラットに吸入NOを30分投与したところ,12時間後の生存率はNO非投与群と比べ有意(p=0.033)に改善した。上大静脈における亜硝酸塩(NO2)濃度はNO非投与群と比べ,投与5時間後まで有意に高値であった。吸入NOによって亜硝酸塩濃度が上昇することで組織障害が低下したことが推測された。出血性ショック早期にNO投与が有用である可能性が示唆された。しかし機序についてはNO消去剤を使用し検討を行ったが、機器の具合もあり検討することができなかった。
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