急性呼吸窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome: ARDS)は、肺の炎症と透過性亢進を特徴とし、急性発症、両側性陰影、低酸素血症を呈するが心原性肺水腫ではない病態としてとらえられている。2012年のベルリン定義での報告では、重症での死亡率は45%に達しており、新たな治療法の探索が急務とされている。近年糖尿病患者でARDS発症率が低下するという「糖尿病パラドックス」とも称される現象が臨床研究にて報告された。申請者らは糖尿病における骨髄由来細胞の異常化による機能不全につき調査を行っており、この発症率の低下は骨髄由来細胞によるものである可能性が高いと考えている。本申請は、今までとは違ったアプローチにてARDSの病態生理を明らかとすると共に新たな治療法を勘案するものである。 平成29年度までにをGFPトランスジェニックマウスの骨髄を移植したマウスにおいて、STZ投与による糖尿病モデルマウスにおける、2型肺胞上皮細胞(肺胞サーファクタントA陽性細胞)の変化を観察したところ、STZマウスにおいては、有意に骨髄由来の2型肺胞上皮細胞が減少することを明らかとしていた。そして平成29年度はマウスに対し、経気管的にLPS(Lipopolysaccharide)吸入させることにより生じる実験的ARDSモデルを用いて検討を行った。STZマウス、正常マウス共に、実験的ARDSモデル作成にて2型肺胞上皮細胞が有意に増加していたが、両者において有意な差を認めなかった。今後は他の肺炎モデルにおいても検討を加え、糖尿病におけるARDS発症率の低下の原因につき引き続き調査を進める予定である。
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