集中治療における栄養療法は重要な治療の1つであるが,エビデンスの乏しい領域である。研究の多くが欧米で行われているため,体格の異なる本邦の集中治療患者に適したエビデンスはほとんどない。そこで,今回,本邦の集中治療における栄養療法の実態を明らかにするために,また,栄養療法が予後に与える影響を明らかにするために多施設共同前向き観察研究を実施した。 13施設から389名の24時間以上人工呼吸を要し,72時間以上,集中治療室に在室した患者の登録を得た。その結果,入室7日目のエネルギー投与量は14.9kcal/kg/day,たんぱく投与量は0.4g/kg/dayであった。また,7日以上,集中治療室に在室し,集中治療室を生存退室した患者223名を,退室時の身体機能が良好(端座位,車椅子,歩行)群105名と,不良群(臥位,坐位)118名に分けて,身体機能に与える因子を検討した。その結果,入室3日目のエネルギー投与量と集中治療室におけるリハビリテーションの実施がそれぞれ独立した因子であることが分かった(オッズ比: 1.12; 95%信頼区間: 1.01-1.23; p=0.04,オッズ比: 0.08; 95%信頼区間: 0.02-0.38; p=0.001)。 現在,集中治療室入室早期の過剰な栄養は生命予後を悪くする可能性が指摘されているが,本研究の結果から身体機能にも影響を与える可能性が示唆された。また,集中治療患者で身体機能を早期に回復させるためには栄養療法とリハビリテーションが共に重要と考えられているが,本研究の結果はこれを支持するものであった。集中治療において治療のゴールが救命から,退院後の生活の質の維持にシフトしてきた。栄養療法が身体機能に影響を与え,退院後の生活の質の維持に関与する可能性を明らかにできた点が本研究の成果と考える。
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