研究課題/領域番号 |
15K10993
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
宮本 和幸 昭和大学, 医学部, 講師 (80555087)
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研究分担者 |
大滝 博和 昭和大学, 医学部, 講師 (20349062)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 熱中症 / 神経傷害 / 遺伝子組み換えトロンボモジュリン / 神経変性 / 血液脳関門 / 血管内皮傷害 |
研究実績の概要 |
以前の研究で遺伝子組み替えトロンボモジュリンの投与は熱中症後神経傷害を暑熱暴露1週・3週で生理食塩水と比較して有意に改善することがわかっている。この機序を調べる目的で髄鞘染色(KB染色)で観察をおこなったがあきららかな所見は認めなかった。このことから、平成28年度は熱中症後の中枢神経傷害について、まずその特徴を把握する目的で43℃モデル・41℃モデル・37℃モデルの3群で熱中症後の神経細胞の変化について観察した。まず、43℃モデルでは熱中症中に激しい痙攣が出現し、予定の60分で生存症例がなかったことから時間を21分に短縮して評価をおこなった。いずれも長期生存は不可能であり、数時間後に死亡した。熱中症直後のH.E染色では大脳皮質において神経細胞の広範囲な変性と小脳のプルキンエ細胞が完全に脱落していた。41℃モデル、37℃モデルでは1週間後・3週間後も生存していた。37℃モデルのH.E染色ではまったく異常は認めなかった。一方、41℃モデルでは熱中症直後のH.E染色で大脳皮質の神経細胞・小脳のプルキンエ細胞の傷害は認めたものの43℃モデルの様な神経細胞の激しい損傷は認めなかった。また、1週間・3週間モデルではH.E染色では大脳皮質においては大きな変化認めなかったものの、小脳のプルキンエ細胞において一部細胞の脱落を認め、小脳が軽度萎縮している症例も認められた。H.E染色のため、小脳の体積の評価は困難であった。今後は、生理食塩水投与群・遺伝子組み替えトロンボモジュリン投与群において直後・1週間後・3週間後の病理組織学的評価をおこなうとともに、免疫染色を追加し、グルオーシスの評価を追加していく。さらに、熱射病直後の脳血液関門の変化につても走査電子顕微鏡を用いて観察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱中症後におこる神経傷害は熱中症直後に発生する神経傷害と、時間が経過してから出現する神経傷害の2つに大別される。実際の臨床では、熱中症直後におきる神経傷害よりも離床のタイミングでおきてくる小脳症状(平衡機能障害)が社会復帰において問題となってくる。本研究では、熱中症後の遅発性神経傷害の機序と、遺伝子組み換えトロンボモジュリン投与がどのような機序で熱中症後の遅発性神経傷害を改善するかについて検討をおこなっている。そのひとつとして平成27年度・28年度は遺伝子組み換えトロンボモジュリンが脳内の炎症性サイトカインを抑制することが一因であることを突き止めた。平成29年度は炎症性サイトカインによる神経傷害が実際にどの様な変化を及ぼすかについて検討をおこなった。結果、熱中症直後の神経細胞死と遅発性神経傷害は別の機序でおこっていることを突き止めた。熱により神経細胞が変性した個体で長期に生存した個体はなく全例数時間以内に死亡した。これは、実際の臨床でも同じで中枢神経が画像広範囲に傷害を受けた症例ではほぼ救命は不可能である。今後は、熱以外の機序で傷害をおこす神経傷害の機序について解明をおこなう必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
中枢神経は正常では脳血液関門があることから体循環からは隔絶されている。このため、好中球などは直接は脳に浸潤することはない。 しかし、熱中症時の脳血液関門の変化についてはまだ十分に解明されておらず、熱中症後に惹起あれる炎症がどこからきているかについては不明である。このため、平成29年度は熱中症後の脳血液関門の変化について検討をおこなう。熱中症後に動物を犠牲にし、走査電子顕微鏡を用いて脳血液関門の状態を評価する。また、別の個体を用いて熱射病後にFITCでラベルしたトレーサーを静注し, 3, 6, 24, 48時間後に脳を摘出し,色素の血管外漏出をBBB傷害の指標とし蛍光顕微鏡を用いて評価する。 さらに、細胞の血管内動画モニターを用いた白血球の脳実質への血管外遊走の観察とrTM投与による効果についての検討をおこなう。具体的には、全身麻酔下に事前に, 右側頭部を一部開頭する。血管・白血球はAcridine orange の投与により可視化する。熱射病後に全身麻酔下で、遠位中大脳動脈を露出させ, 共焦点顕微鏡(LSM510, Carl Zeiss)を用い動画イメージを撮影する。これにより熱射病後の脳実質への白血球遊走を観察する。 また, rTMもしくは生食(対照)投与により, 白血球の血管外遊走がどう変化するかについても検討をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費の経費削減に努め、予定より大幅に価格を抑制できた。また、病理組織学的標本の検鏡を教室内(教授交代で病理専門医となったため)でおこなうことができるようになったことから大幅に予算を削減することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
削減できた予算を今年度おこなう免疫染色抗体, PCR-primer, 実験動物の購入にあてる予定である。
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