研究実績の概要 |
熱中症では急性期傷害(多臓器傷害・播種性血管内凝固症候群(DIC))の他、熱中症からしばらくしてから出現する中枢神経傷害がある。熱中症後の中枢神経傷害(小脳失調・高次脳機能障害)では社会復帰が妨げられ大きな問題となっている。しかし、現代でもどのような機序で熱中症後の中枢神経傷害がおきるかについては実はよくわかっていない。 本研究ではまず、熱中症後の中枢神経傷害特に小脳失調(協調運動障害)に焦点をあて研究をおこなった。最初に、マウス熱中症モデルを用いて、熱中症後の協調運動障害がどのようにおこるかについて暑熱暴露から1, 3, 5, 7, 9週でRota rode testを用いて検討した。結果、熱中症後の協調運動障害は熱中症後1週間後から出現し、3週間後に最も強く、対照群と比べて有意差を認めた。その後、5週間目からは徐々に協調運動障害は改善していくことがわかった。 熱中症群では病理組織学的検査(HE染色)でところどころPrukinje細胞の脱落を認めた。軸索を染色するKB染色ではあきらかな脱髄はなかった。このことから、Prukinje細胞の傷害により協調運動傷害が出現している可能性が考えられた。 遺伝子組み換えトロンボモジュリン(rTM)はDICの治療薬として用いられている。本研究では、マウス熱中症モデルにrTMを熱中症から5日間投与した。結果、rTM投与群は熱中症後3週間で優位にRotarod scoreの改善を認めた。その機序として、大脳皮質・脳幹・小脳の炎症性サイトカインの測定をおこなたところ、小脳で優位にTNF-αを抑制していることがわかった。結果、熱中症後のrTMは中枢神経の炎症を抑制し協調運動障害を改善することが判明した。熱中症後のrTMは離床を早め社会復帰につながる可能性があると考える。
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