ヒアルロン酸(HA)の歯胚形成への役割を明らかにすることを目的に、まずHA合成酵素(HAS)および分解酵素のマウス歯胚の発育過程における遺伝子発現パターンを検索した。その結果Has1mRNAの発現はほとんど認められす、Has2mRNAは歯胚周囲の間葉組織、Has3mRNAはエナメル器をはじめとする上皮組織に特異的に認められた。生後組織ではHas2 mRNAの発現はほとんど認められなくなったが、Has3mRNAに関しては歯根形成を制御するヘルトビッヒ上皮鞘(HERS)およびstem cell nicheとして認識されている切歯の apical budにも発現が認められた。HA-binding proteinを用いた組織化学的手法により合成されたHAの存在部位の検索を行ったところ、上皮、間葉両者ともHERSやapical bud をはじめとする様々な場所に陽性反応が認められた。HA分解酵素の遺伝子発現は強い反応が認められなかった。以上のことからHas分子のうち特にHas3が歯胚発育、特に生後における歯根形成や apical budの構造維持に関与している可能性が示された。 次に胎齢16日齢のマウス臼歯を摘出して器官培養の系に移し、Has3の機能をノックダウンするためにsiRNAを終濃度200nMで培地中に添加し、7日間培養後歯胚の構造変化を検索した。その結果歯胚におけるHas3 mRNAノックダウンの効果はコントロールと比較して、4割ほど下方制御された。実体顕微鏡で歯胚全体の大きさを観察したところ、実験群は対照群と比較して全体的に小さい傾向を示した。しかしながら、組織学的観察においては内エナメル上皮や象牙芽細胞の形態に関して、実験群は対照群と比較して大きな変化は認められなかった。以上のことからHas3の歯胚発育に関する作用は他のHas分子などで代償される可能性が考えられた。
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