研究課題/領域番号 |
15K11007
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
脇坂 聡 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (40158598)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 味覚異常 / 亜鉛欠乏 |
研究実績の概要 |
一般的には「味覚」は単に味覚神経による刺激の伝導のみならず、「歯ごたえ」「舌ざわり」などの一般体性感覚などを統合した感覚である。近年味覚異常が増加傾向にあることが知られおり、その原因の一つとして亜鉛欠乏があげられている。低亜鉛で飼育した動物の味覚受容に関して行動学的検索を中心として研究が行われているが、末梢の味覚受容器である味蕾の細胞学的特性や、触覚、圧覚などに対する影響について組織学的な検索はほとんど認められない。本研究の目的は、低亜鉛による味覚異常モデル動物において味覚受容器や他の口腔内感覚受容器の変化を行動学的、組織学的、細胞学的に明らかにし、味覚受容・伝達機構における亜鉛の役割を解明しようとするものである。 モデル動物は生後3週より、低亜鉛飼料で4週間飼育した動物とした。この動物では、体重増加が正常動物と比較して有意に低下し、血清中の亜鉛濃度も著しい低下、脱毛などの皮膚異常が認められ、これらは既に報告されている重度の亜鉛欠乏に起因する病態であり、本研究での実験モデルとして最適である事を確認した。 本モデル動物を用いて味覚受容、特に苦味受容を検討すると、苦味に対する忌避が低下していた。苦味に対する、味覚伝導の中継核である結合腕傍核での神経活性をc-fosを指標として検討すると、正常動物において苦味で神経活性が上昇する部位での神経活動が上昇していないことが分かり、本モデルでは苦味に対する感受性が低下している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度は27年度に確立した生後3週より、低亜鉛飼料で4週間飼育した実験モデル動物を用い、味覚および嗅覚についてさらに検討を加えた。味覚については苦味刺激に対して行動学的および苦味刺激により惹起される味覚伝導回路おける神経の活性が低下していることが明らかになり、これらの変化は通常飼料の飼育により回復することが明らかとなった。この味覚障害の原因として味覚受容器の形態的、機能的変化が考えられるため、味覚受容器である味蕾について組織化学的に検討した結果、味蕾細胞の分化が遅れ、寿命が約1.5倍に伸びていることが分かった。この研究成果は国際学会で発表するとともに、学術雑誌にて公表しており、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
亜鉛欠乏モデルでは、低亜鉛飼料による飼育を開始する時期により、亜鉛欠乏による症状が異なると言われている。一般的に成長期に低亜鉛飼料で飼育した動物のほうが、重篤な症状を示すことが報告されている。今回の実験モデルは離乳後直ちに低亜鉛試料で飼育を開始したが、ある程度成熟した動物で同じようになるか否かを検討する必要があると思われ、生後7週から低亜鉛飼料による飼育を開始した動物を作成し、検討を始めた。また、味覚受容に関しては、苦味刺激を用いたが他の刺激ではどうなるかも検討を開始した。さらに、神経損傷後の異常感覚にニューロンとグリアの連関が報告されており、これに亜鉛がどのように関与しているかについても検討を始めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物飼育舎の動物飼育スペースが限られており、長期の動物飼育が当初の計画よりも2クルー少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度より動物飼育舎の飼育スペースが拡張されたので、28年度に予定してた動物作成を2クルー増やす予定であり、その経費とする。
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