研究実績の概要 |
筋サテライト細胞は骨格筋組織の形成・維持・再生において中心的な役割を担っており、通常、休止状態の単核細胞として筋線維上に存在するが、筋損傷や運動などの刺激により速やかに活性化され筋線維へと分化する。骨格筋では、胎生期に筋前駆細胞から筋芽細胞へ分化する系統と筋サテライト細胞へ分化する系統に分岐する。本研究では、胎生期マウス舌筋発生において筋前駆細胞から筋サテライト細胞への分化制御に注目して、筋サテライト細胞の分化誘導に働くPax7―Nfix―Notchシグナルを中心とした分子カスケードの制御因子群の役割を明らかにする。 平成28年度では、初年度で行った胎生9.5~14.5日までの舌原基/組織でのDNAマイクロアレイ解析に加えて、筋サテライト細胞の分化制御因子Nfixとその関連遺伝子についてリアルタイムPCRによる詳細な発現解析を実施するとともに、免疫組織化学による検証を行った。その結果、舌原基でのNfixの発現は、胎生10.5日から胎生11.5日にかけて急速に発現上昇した後も胎生14.5日に至るまで発現増加しており、胎生14.5日以降は減少するが一定の発現量を維持していた。筋サテライト細胞で発現する遺伝子や分化制御因子として知られるPax7, Hesr3, Notch1, Dll1, Jag1が胎生14.5日の舌筋でも発現上昇する遺伝子であることがリアルタイムPCR解析でも確かめられた。遺伝子発現解析から、筋サテライト細胞の分化制御因子に関連するCxcr4は胎生9.5日から上昇し、胎生12.5~14.5日にかけてピークを示した。タンパク局在では、胎生11.5日前後でDesmin陽性細胞のなかにCxcr4共陽性細胞の存在が確認されたが、Cxcl12は舌筋原基の内外に位置する脈管内皮細胞で陽性を示しており、脈管内皮細胞からの筋サテライト細胞の分化制御が働いている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度では、筋サテライト細胞の分化制御因子Nfixとその関連遺伝子(Pax7, MyoD, Myf5, Myogenin, Cxcr4, Cxcl12, Hesr3, Notch1, Dll1, Jag1)について、リアルタイムPCRによる詳細な発現解析を行った。その結果、各遺伝子の24時間ごとの発現変動を解析することができた。さらに、Nfix抗体を用いた免疫組織化学の条件設定を行った。抗体の性状からかなり難易度の高い染色であるうえに、非特異的な一部の細胞にも陽性を示したことから、筋細胞系譜のマーカDesminとの二重染色が必須となった。多くの時間を要したが、筋系譜のNfix陽性細胞の局在を明確に示すことができるようになった。また、筋サテライト細胞の分化制御因子に関連するCxcr4の発現解析とタンパク局在を明らかにした。胎生期の舌原基における筋サテライト細胞の分化に関わる遺伝子と分子の変動と局在を明らかにする途上にあり、今後も継続していく計画である。今年度では、筋サテライト細胞の分化誘導因子として注目された遺伝子の機能検証を目的として、舌原基/組織の器官培養系での予備的な阻害実験で胎生9.5~12.5日の舌原基からの器官培養実験が可能であることを確かめており、NfixのモルフォリノAS-ODNによる阻害実験を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度では、顕微切断法により胎生10.5~18.5日の舌原基/組織を分離・採取し、筋サテライト細胞の分化制御因子(Pax7, MyoD, Myf5, Myogenin, Nfix, Hesr3、Notch1~4, Dll1,3,4, Jag1,2)と関連因子(CalcitoninR, Sdc3,4, Mstn, M-cad, V-cam, Cxcr4, Caveolin1, Itga7, Cebpb)とDNAマイクロアレイ解析で新たに候補に挙がった遺伝子についてリアルタイムPCRにより定量解析とともに、タンパク局在について免疫組織化学による検証を継続する。筋サテライト細胞の分化誘導因子として注目された遺伝子・miRNAの機能検証を目的として、舌原基/組織の器官培養系で、モルフォリノAS-ODN・阻害剤・中和抗体の投与、標的分子を浸漬したビーズ添付によるノックダウンの実験を開始する。その際、Notchの細胞内ドメイン分子の投与による影響も検討する。筋サテライト細胞の分化誘導に関わるmiRNAを網羅的に解析する目的で、胎生12.5, 14.5, 16.5, 18.5日の筋サテライト細胞が発現するmiRNAについてマイクロアレイ解析を行い、miRNA発現プロファイルを作成する。
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