研究課題/領域番号 |
15K11034
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研究機関 | 高知学園短期大学 |
研究代表者 |
三島 弘幸 高知学園短期大学, その他部局等, 教授(移行) (30112957)
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研究分担者 |
見明 康雄 東京歯科大学, 歯学部, 准教授 (00157421)
鈴木 信雄 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (60242476)
服部 淳彦 東京医科歯科大学, 教養部, 教授 (70183910)
池亀 美華 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (70282986)
筧 光夫 明海大学, 歯学部, 講師 (90095331) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | メラトニン / 象牙質 / 象牙芽細胞 / 石灰化 / コラーゲン線維 / 顕微ラマン分析 / 偏光顕微鏡 / MALDI TOF-MS法 |
研究実績の概要 |
本年度は、メラトニン投与による象牙質や象牙芽細胞への影響を組織学的または分析学的に調べることを目的として、実施した。本研究は前年度と同様に出生5日、6日、7日令のSDラットを対照群、低濃度群(20μg/mL)、高濃度群の3群に分けて行った。PAM染色、TIブルー染色などを施し、低真空SEMや光学顕微鏡などで組織学的に検索した。さらにメラトニン受容体の局在を免疫組織学的に検索した。また偏光顕微鏡、MELDI TOF-MS法、顕微ラマン分析やX線回折にて解析した。 低真空SEMや光学顕微鏡の観察では、対照群と比較し、メラトニン投与群では象牙芽細胞の背が高く、より象牙芽細胞数が増加していた。また象牙芽細胞層に毛細血管が多く分布していた。象牙前質中の石灰化球の数が増加し、大きさも増大していた。さらに偏光顕微鏡では成長線間の層毎に干渉色の違いが見られた。免疫染色では象牙芽細胞でMT1とMT2の発現が確認され、MT2に比べMT1の発現が強かった。SEMの反射電子像でも、石灰化球の大きさが増大していた。X線回折において、対照群と比較し、高濃度メラトニン投与群ではアパタイト結晶のピークが明瞭に検出された。メラトニン投与により象牙質のアパタイト結晶の結晶性及び配向性が良くなったと考察された。メラトニンが成長線形成機序に以外に、象牙質や象牙芽細胞の組織に影響を与え、基質のコラーゲン線維の構造や石灰化機構、さらにアパタイト結晶の結晶性を変化させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低真空SEM及び高真空SEMでPAM染色やTIブルー染色を施した脱灰試料で稲賀らが開発した手法(稲賀ら,2014)で観察した。投与群では象牙芽細胞の背が高く、より密集しており、毛細血管の分布量が多くなっていた。免疫染色では象牙芽細胞でMT1とMT2両方の発現が確認され、MT2に比べMT1の発現が強かった。MT1の発現濃度の比較より、メラトニンの量に応じてメラトニン受容体はより発現した。 偏光顕微鏡での観察では、前年度認められた高濃度群の成長線が層毎にみられる干渉色の違いが確認された。X線回析では対照群と比較し高濃度群ではアパタイト結晶の2つのピークが検出された。メラトニン投与によりアパタイト結晶の結晶性が良くなったと考察された。 前年度に行った質量分析法 MELDI TOF-MS分析をより詳細に検索した。質量分析法ではⅠ型コラーゲンのα1鎖とα2鎖のピークは849-960 m/z に検出され、789 m/zと805 m/zのピークはⅠ型コラーゲンα2鎖の成分である(Shweitzerら, 2009)。今回、MELDI TOF-MS分析で検出した795m/zと818m/zのピークは、Ⅰ型コラーゲンのα2鎖が分解されたペプチドが検出されたと推定される。ペプチドの検出強度はメラトニンの投与量に比例して高い値となったため、メラトニンの投与により象牙質のコラーゲン分泌が促進されていると考察した。ただ、電子線後方散乱解析法EBSD分析の結果では金属や天然鉱物で見られるキクチパターンは確認できなかった。象牙質のアパタイト結晶が非常に小さいことや、コラーゲンのような有機物が結晶周囲に存在することが原因と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
偏光顕微鏡での観察では夜間標本において、対照群と比較して高濃度群の成長線は層ごとに干渉色の違いが見られ、メラトニン投与によりアパタイト結晶とコラーゲン線維の組織構造に変化があることが示唆された。今後昼間と夜間とで、象牙質の無機質や有機質の組成に違いがみられるか検討していきたい。鍍銀染色法で観察されたメラトニン投与群でのコルフ線維の構造をTIブルー染色や導電性コーティング剤(BEL-1)を用いて、低真空SEMで詳細に観察し、光学顕微鏡下での鍍銀染色の結果を追認していきたい。またコラーゲン線維配列の分析においてCL法では加速電圧が低いことや結晶とコラーゲン線維の複合構造などの要因で所見が得られなかった。本年度は、加速電圧を上げるなど観察条件を検討して、解析する計画である。本年度MELDI TOF-MS分析で検出した795m/zと818m/zのピークは、Ⅰ型コラーゲンのα2鎖が分解されたペプチドと推定しているが、成分分析を行い、同定していきたい。 メラトニン投与実験を行い、SPOT-Chemにてメラトニン投与による血液中のCa,Mg,Pの挙動を昼間と夜間と変動を解析する。また得られた試料から、象牙質の石灰化度の変化に注目し、コンタクトマイクロラジオグラフィー分析(CMR ; Contact microradiography)にて、対象群と投与群とで夜間や昼間で石灰化度に変化があるかどうかを詳細に解析する計画である。電子線後方散乱回折分析法EBSD分析では対照群とともにメラトニン投与群でも象牙質結晶が微細であることが原因でキクチパターンは得られなかった。方法を変えてAFMで結晶形態を観察していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にメラトニン投与実験をおこない、メラトニン投与における血液中のCa、P、Mgの挙動変化やそれと並行して象牙質のCMR分析での石灰化度解析を行う計画していた。昼間の実験では、SPOT-Chemの分析においてCaとPは対照群と比較し高濃度群で低いことから、メラトニン投与によりCaとPが歯に取り込まれて象牙質形成に関与することが考えられた。また、メラトニン量によって血中のCaやPの分布量が変化すると考察された。夜間投与実験の行う時期の調整がつかず、次年度に延期することになった。そのため、実験にかかる経費やSPOT-Chem分析やCMR分析に伴う経費が次年度に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、前年度にできなかったメラトニン投与実験の追加実験をおこない、メラトニン投与における昼夜での血液中のCa、P、Mgの挙動変化を行う予定である。さらにメラトニン代謝産物の変化を解析する計画である。また、その投与実験した試料の切歯を摘出し、昼夜での象牙質のCMR分析での石灰化度の比較を行い、対照群と投与群での石灰化度の比較検討を行う計画である。MELDI TOF-MS分析で検出した795m/zと818m/zのピークがⅠ型コラーゲンのα2鎖が分解されたペプチドかどうか成分解析を行う予定である。
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