D-dopachrome tautomerase (DDT)は脂肪組織から分泌される生理活性物質アディポカインの一つで、インスリン抵抗性改善作用を有する。その機序としてDDTは脂肪細胞に作用して脂質代謝を抑制すること、インスリン抵抗性を惹起するfatty acid binding protein-4、selenoprotein Pの発現を抑制すること、インスリン抵抗性を抑制するvascular endothelial growth factor-Aの発現を促進すること、前駆脂肪細胞に作用して脂肪細胞への分化を抑制することが関与すると考えられた。このうち脂肪分化抑制作用はマウスの前駆脂肪細胞株3T3L1では認められないことから、ヒト特異的作用と考えられた。糖質コルチコイド(GR)シグナルの下流に位置するLMO3はヒト特異的に脂肪細胞への分化を促進させることが知られており、DDTを作用させたヒト前駆脂肪細胞株SGBSでは、デキソメタゾン(DEX)によるLMO3発現誘導が抑制される。そのDDTによるLMO3発現抑制機序について検討した。 DDTはSGBS細胞でc-FOSの発現を上昇させる。c-FOSはGRシグナルを抑制することが知られていることから、c-FOSがDDTによるLMO3発現に及ぼす影響を検討した。SGBS細胞にc-FOSに対するsiRNAとコントロールsiRNAを導入し、それぞれにDEXを作用させたところ、LMO3発現に差異は認められなかったことから、SGBS細胞ではLMO3発現にc-FOSは関与しないことが示唆された。次にDDTのGRシグナルに対する影響について検討した。DDT存在下および非存在下でDEXによるGRの局在に差異を認めなかった。以上よりDDTによるLMO3発現抑制はGRシグナル非依存的であることが示唆された。
|