研究実績の概要 |
形態的に異なる2種類のヒト正常顎下腺 (SMG)細胞株を用いた本研究では、それぞれに発現しているマイクロRNA(以下miRNA)のプロファイリングを精査することにより、miR-200ファミリーの発現の有無が、細胞株の形態の差異および細胞内応答性や機能に影響していることが強く示唆された。2種類の細胞株、NS-SV-ACとNS-SV-DCは、SV-40で不死化樹立時(1993年、東博士ら)、コロニー形成能がなく、ヌードマウスへの移植で腫瘍形成が認められなかったことからいずれも正常細胞株である。本研究によりNS-SV-ACはmiR-200ファミリー(miR-200b/a,miR-429、miR-200c,miR-141)およびmiR-205の発現が無く、NS-SV-DCは一部miR-200ファミリー(miR-200b/a,miR-429)の発現が無いことが明らかとなった。miR-200ファミリーおよびmiR-205は、接着因子E-カドヘリンの遺伝子発現を抑制的に制御する転写因子を抑制するため、miR-200ファミリーおよびmiR-205の発現低下は、E-カドヘリン発現の低下をもたらす。これらの遺伝子発現変化は、上皮-間葉系変換(EMT)の重要なマーカーとなっている。EMTは細胞の可塑性に影響し、個体発生初期の細胞移動の他、癌細胞の転移悪性化、薬物耐性への関与も報告され重要である。NS-SV-ACはEMT状態、NS-SV-DCは部分的EMT状態にあると考えられた。これまで我々が注目してきたmiR-1290およびmiR-222に対する2つの細胞株間での応答性の違いも、これらEMT状況の差異が影響していると考えられた。
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