研究課題/領域番号 |
15K11044
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
重村 憲徳 九州大学, 歯学研究院, 教授 (40336079)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 味覚 / 塩味 / アンジオテンシン / レニン / アンジオテンシノゲン / アンジオテンシン変換酵素 |
研究実績の概要 |
近年我々は、血圧調節ホルモンであるアンジオテンシンIIが中枢性に作用するだけでなく、抹消の味覚器にもその受容体AT1を介して直接作用し、塩味感受性を抑制し、さらに同時に甘味感受性を増強することを見出した。しかし、このアンジオテンシンIIがどこで、どのように生合成され、味覚器に作用しているかどうかについてはほとんど不明である。そこで、本研究課題ではアンジオテンシンII合成に関わるレニン、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシン変換酵素に着目し、これらの(1)マウス味覚器における発現様式と分泌機能、(2)関連遺伝子改変マウスにおける味神経応答、(3)味溶液に対する摂取行動応答の解析を行い、「味蕾内レニンーアンジオテンシン系」の存在と機能を明らかにすることを目的とする。 これまでに、これら3つの合成系分子について発現解析を行った。RT-PCRの結果、レニン、アンジオテンシノゲンおよびアンジオテンシン変換酵素が味覚器に発現していることを明らかにした。一方、味蕾を含まない舌上皮ではその発現は認められなかった。in situ hybridizationをもちいた解析から、これらの発現は味蕾の一部の味細胞に発現していることがわかった。さらに、二重組織化学染色の結果、レニン、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシン変換酵素は、味蕾内でほぼ同じ発現様式であること、つまり、2型味細胞マーカーであるT1r3(甘味受容体構成因子)、または、αENaC (塩味受容体チャネル)発現細胞と共発現しており、さらにアンジオテンシンII受容体AT1とも共発現していることが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス味蕾における共発現解析において、アンジオテンシンII合成に不可欠なレニン、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシン変換酵素の発現を確認した。さらに、2型味細胞マーカーであるT1r3(甘味受容体構成因子)、または、αENaC (塩味受容体チャネル)発現細胞との共発現解析にも成功し、さらに、アンジオテンシンII受容体AT1とも共発現していることを明らかにした。一方、酸味受容細胞マーカーであるGAD67-GFPマウスをもちいた解析から、こららの3つの合成系分子は酸味受容細胞には発現していないこともわかった。 これらのことから、レニン-アンジオテンシン合成系は味蕾内の特定味細胞において機能し、味蕾内でアンジオテンシンIIが分泌調節されており、オートクライン的に塩味細胞および甘味細胞に作用している可能性が強く示唆された。我々が日常的に経験する食事中の短時間での味覚修飾(食べ始めは美味しいが、食べ終わりではあまり美味しいと感じない)が、この短時間で働く味蕾内レニン-アンジオテンシン合成系により、甘味と塩味両方の感受性が同時に修飾されるために起こっている可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、味蕾内レニン-アンジオテンシン合成系の味蕾内における共発現性解析はほぼ終了した。今後の研究の推進方策は、このアンジオテンシンIIの合成系がどのような刺激で活性化するのかについて明らかにすることである。アンジオテンシンII合成のスタートは、レニンから始まる。レニンが分泌されるとアンジオテンシノゲンが代謝されてアンジオテンシンIに変換される。次にアンジオテンシン変換酵素により、このアンジオテンシンIがアンジオテンシンIIに変換される。この合成系の最初の起点となるレニン分泌に着目して解析を進める。腎臓糸球体傍細胞からのレニン分泌は、体内Naや水分低下により生じることが知られている。そこで、本研究でもまず、体内水分量が低下することで味蕾内レニン分泌が亢進するかどうかについて調べる。マウスを23時間絶水させ、その時のレニン分泌について、ELISAまたは免疫染色により解析を進める。またこの時の味神経応答および行動応答の変化についても解析を行う。さらに、アンジオテンシンIIについても同様の解析を行う。 塩味/甘味に対する感受性および嗜好性は塩/カロリー摂取に直接的に影響するため、その抹消および中枢における分子機構を明らかにすることは、塩/カロリーの過剰摂取により起こりうる高血圧症/糖尿病などの発症予防や、新たな治療法の開発に繋がることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額890円であり、計画通りの支出であると考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
890円を翌年度分と合わせて物品費などに使用する。
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