近年我々は、血圧調節ホルモンであるアンジオテンシンIIが中枢性に作用するだけでなく、抹消の味覚器にもその受容体AT1を介して直接作用し、塩味感受性を抑制し、さらに同時に甘味感受性を増強することを見出した。しかし、このアンジオテンシンIIがどこで、どのように生合成され、味覚器に作用しているかどうかについては不明であった。そこで、本研究課題ではアンジオテンシンII合成に関わるレニン、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシン変換酵素に着目し、これらの(1)マウス味覚器における発現様式と分泌機能、(2)関連遺伝子改変マウスにおける味神経応答、(3)味溶液に対する摂取行動応答の解析を行い、「味蕾内レニンーアンジオテンシン系」の存在と機能を明らかにすることを目的とした。 これまでに、これら3つの合成系分子について発現解析を行った。RT-PCRの結果、レニン、アンジオテンシノゲンおよびアンジオテンシン変換酵素が味覚器に発現していることが明らかとなった。一方、味蕾を含まない舌上皮ではその発現は認められなかった。in situ hybridizationをもちいた解析から、これらの発現は味蕾の一部の味細胞に発現していることがわかった。さらに、二重組織化学染色の結果、レニン、アンジオテンシノゲン、アンジオテンシン変換酵素のすべての分子は、II型味細胞マーカーであるT1r3(甘味受容体)、または、αENaC (塩味受容体)発現細胞と一部共発現していることが明らかになった。さらに、絶水実験により、味細胞におけるレニンの発現量が有意に増加していることが明らかとなった。 以上のことから、アンジオテンシンIIは末梢の味蕾内で合成、分泌されており、味覚感受性を食事中などの短時間で調節することで、栄養物質の欠乏や過剰摂取を未然に防いでいる可能性が示唆された。
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