味細胞に発現する甘味受容体TAS1R2/TAS1R3は、全身の様々な臓器に発現し、エネルギー受容センサーとして生体恒常性の維持に寄与することが示唆されている。生体恒常性の破綻は、生活習慣病につながる可能性があり、甘味受容機構の解明により、これらの予防、治療に役立つ味覚修飾物質の発見や、創薬につながることが期待される。その基礎として、甘味受容体TAS1R2/TAS1R3と基質との結合特性および受容体の生理的機能を解明することが必要不可欠である。 グルマリンは、植物ギムネマ・シルベスタより抽出されるペプチドで苦味、酸味、塩味などの他の味質には影響を与えず、甘味を強力に抑制することが知られている。その感受性には種差があり、げっ歯類に有効で、ヒトには無効である。またマウス系統間で感受性に差があり、B6マウス、129マウスによく効くが、BALBマウスには余り効かない。本年度は、甘味受容体強制発現系を用いて、グルマリンと甘味受容体Tas1r2/Tas1r3の相互作用を調べた。その結果、グルマリンは、マウスTas1r2/Tas1r3の甘味応答を抑制した。一方、ヒトTAS1R2/TAS1R3の甘味応答は抑制しなかった。このグルマリン感受性の種差および甘味受容体のキメラを用いた解析により、グルマリンはマウスTas1r3の細胞外領域と相互作用することとが示唆された。また、マウスの系統差を用いた解析では、甘味受容体の系統差による変異情報を基にグルマリン感受性に系統差を生じるアミノ酸の存在に迫った。
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