研究課題
歯周病は種々の歯周病原菌の感染によって引き起こされる慢性炎症性疾患である。炎症性の破骨細胞の分化誘導と活性化は、歯槽骨の破壊を引き起こし、歯の喪失を招く。我々は、歯周病における破骨細胞分化誘導・活性化のメカニズムを研究して来た。これまで、歯周病菌から遊離する内毒素内毒素による直接あるいは炎症性サイトカイン遊離を介した骨芽細胞におけるRANKL発現の誘導の重要性が専ら強調されて来たが、我々は、主要な歯周病菌であるPorphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼであるジンジパインによるosteoprotegerinの分解が重要な役割を果たしていることを見出した。これは破骨細胞の分化・活性化の制御におけるosteopretegerin分解の重要性に着目した初めての研究といえるだろう。このことから我々は、内毒素や炎症性サイトカインに加え、細菌性および宿主のプロテアーゼ、宿主のプロテアーゼ阻害タンパク質、炎症性サイトカインやプロスタグランジン以外の宿主細胞の種々の反応が破骨細胞形成に果たす役割を複合的に理解することが重要であると考えるに至った。今年度は、炎症によって産生が亢進することが知られている一酸化窒素および活性酸素に依存して形成される核酸代謝産物の破骨細胞における産生と破骨細胞分化に果たす役割を解析した。その結果、8-ニトログアノシン3',5'-環状一リン酸 (8-ニトロ-cGMP)が破骨細胞およびその前駆細胞で産生されること、さらに8-ニトロ-cGMPが破骨細胞分化を強力に促進することを見出した。このことは、一酸化窒素および活性酸素産生の制御が歯周病を始めとする炎症性骨破壊抑制に重要であることを示唆する。
1: 当初の計画以上に進展している
我々は、歯周病性骨破壊等の炎症性破骨細胞形成について、これまでの内毒素、炎症性サイトカインおよびそれらによるRANKL発現制御に加え、細菌性および宿主プロテアーゼ、宿主のプロテアーゼ阻害タンパク質によるosteoprotegerinの分解制御に注目した研究を進めて来たが、今年度の研究で、炎症環境下で破骨細胞自身が産生する8-ニトロ-cGMPが破骨細胞分化を制御する新たな因子であることを発見した。これは、当初の計画の範囲を超えており、新たな研究分野の形成につながる可能性も高い。さらに、ジンジパインがシステインプロテアーゼであることを考えるならば、宿主のニトロ化・酸化ストレス,特にチオール基と反応して共有結合物を作ることが知られてる8-ニトロ-cGMPとの相互作用の可能性を無視することは出来ない。
引き続き細菌性および宿主プロテアーゼ、宿主のプロテアーゼ阻害タンパク質によるosteoprotegerinの分解制御の破骨細胞分化・活性化における役割を解析する。一方、これらの現象は歯周病原菌の感染に伴って歯周組織で高まる酸化・ニトロ化ストレスと切り離して理解することは出来ないと考える。今年度の発見に加え、例えば、ジンジパインはシステインプロテアーゼであるため、宿主のニトロ化・酸化ストレス,特にチオール基と反応して共有結合物を作ることが知られてる8-ニトロ-cGMPとの相互作用の可能性を無視することは出来ない。今後は、当初の計画に加え、宿主の酸化・ニトロ化ストレスの役割にも注目して、炎症性骨破壊を複合的に理解するための研究を進めていきたいと考える。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 473 ページ: 537-544
10.1016/j.bbrc.2016.03.109
European Surgical Research
巻: 56 ページ: 1-18
10.1159/000441058
巻: 467 ページ: 146-151
10.1016/j.bbrc.2015.09.092
細胞工学
巻: 34 ページ: 379-383
http://www10.showa-u.ac.jp/~oralbio/