研究課題/領域番号 |
15K11053
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
宮本 洋一 昭和大学, 歯学部, 准教授 (20295132)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 破骨細胞 / 炎症 / プロテアーゼ / 歯周病 |
研究実績の概要 |
歯周病は歯周病原菌の感染による炎症性疾患で、炎症局所における破骨細胞の分化・活性化は歯槽骨の破壊をもたらす。我々は、これまでに、歯周病原菌のひとつPorphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼであるリシン特異的ジンジパイン(Kgp)が破骨細胞分化抑制因子のオステオプロテゲリン(OPG)を分解・不活性化することで、炎症性の破骨細胞分化を促進することを報告して来た。そこで今年度は、宿主由来のプロテアーゼが、Kgpと同様にOPGの分解を介して、破骨細胞分化を促進する可能性について検証した。また、炎症部位で産生が高まる活性窒素種依存的な骨代謝調節分子についても解析を行った。 破骨細胞は種々のプロテアーゼを産生する。それらのプロテアーゼがOPGを分解するならば、破骨細胞の分化・活性化を促進することで、骨破壊の増悪の原因になる可能性が考えられる。そこで破骨細胞が産生する代表的なプロテアーゼであるカテプシンKおよびマトリックスメタロプロテアーゼ-9(MMP9)のリコンビナント・タンパク質によるOPGの分解をOPGのWestern blottingによる解析した。その結果、カテプシンKはOPGを分解したが、MMP9によるOPGの分解は検出されなかった。 歯周病の局所には、好中球が浸潤して、菌を排除する一方、炎症の惹起に関与している。近年、好中球がNETosisの際にエラスターゼを細胞外に放出することが明らかになってきた。そこで、好中球を含む懸濁液にOPGを添加したところ、OPGは効率よく分解された。また、この反応はDNA分解酵素により促進されたことから。DNAトラップからエラスターゼが遊離したものと考えられる。さらにリコンビナント・エラスターゼもOPGを分解した。これらのことから、好中球エラスターゼが破骨細胞の形成促進を介して歯槽骨破壊関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々報告されている破骨細胞分化制御因子の中でも、最も重要なものとして、骨芽細胞や骨細胞が産生するRANKLとOPGが知られている。RANKLは破骨細胞前駆細胞膜上のRANKに結合することで、破骨細胞分化を促進する。OPGは、RANKLのデコイ受容体で、破骨細胞分化を抑制する。そのため、骨芽細胞や骨細胞における両遺伝子およびタンパク質の発現比(RANKL/OPG)が破骨細胞分化に重要と見なされている。一方我々は、破骨細胞の分化制御におけるOPG分解・不活性化の重要性を指摘してきた。これまで、歯周病原菌が産生するKgpがOPGを分解し、破骨細胞分化を促進することを明らかにしてきたが、歯周病の病巣では、菌体のみならず、宿主の細胞も様々なプロテアーゼを産生する。本年度の研究では、破骨細胞が特異的に産生するカテプシンKおよび炎症部位に集積する好中球が特異的に産生するエラスターゼがOPGを分解することを発見した。これは、破骨細胞分化の調節因子としてのプロテアーゼの重要性という、我々の仮説を裏付ける知見と言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、どのような宿主プロテアーゼがOPGを分解するかを検索していく予定である。その際に、Kgpなどの歯周病原菌由来プロテアーゼによる宿主プロテアーゼの活性化の有無を評価する。OPG分解活性が認められたプロテアーゼについては、RANKL、RANK、M-CSF等の破骨細胞分化調節因子の分解も合わせて解析する。 また、今年度の研究で見出されたカテプシンKと好中球エラスターゼが破骨細胞分化に与える影響を、骨芽細胞・破骨細胞前駆細胞の共存培養系ならびに破骨細胞前駆細胞単独培養系を用いて、in vitroで解析する。その際、血清中に存在するα2マクログロブリンやα1プロテアーゼインヒビターなどの内因性プロテアーゼ阻害タンパク質やそれぞれのプロテアーゼに対する阻害剤および中和抗体の影響を検討する。また、骨芽細胞・破骨細胞前駆細胞の共存培養系ならびに破骨細胞前駆細胞単独培養系に好中球を共存させた上で、好中球のNETosisを誘導し、破骨細胞の分化がどのような影響を受けるかを明らかにする。その際、好中球NETosisに対するP. gingivalisおよびその菌体成分に影響を解析する。 カテプシンK、好中球エラスターゼおよび29年度の研究で見出された宿主プロテアーゼによるOPGの分解部位の同定を行う。また、OPG分解断片のRANKL結合能をインタクトなOPGと比較する。 以上の研究から、破骨細胞分化のプロテーアーゼ制御を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、血清中の主要なプロテアーゼ阻害タンパク質である、α2マクログロブリン遺伝子の欠損マウスを用いた、P. gingivais感染モデルを用いて骨破壊におけるプロテアーゼの役割を本年度より解析する予定であったが、宿主プロテアーゼのin vitro活性およびプロテアーゼを介さない炎症性の破骨細胞分化の実験を優先させた。その結果、好中球エラスターゼが重要な破骨細胞分化調節因子である可能性が示唆された。好中球エラスターゼに対する内因性の阻害タンパク質は、α2マクログロブリンではなく、α1プロテアーゼインヒビターである。解析すべき内因性プロテアーゼ阻害タンパク質の選択を慎重にすべきと考え、当初計画した動物実験を一時延期することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
リコンビナントあるいは精製α2マクログロブリンおよびα1プロテアーゼインヒビターを用いて、宿主プロテアーゼによる破骨細胞分化促進に対するこれら内因性プロテアーゼ阻害タンパク質の影響を解析したいと考えている。繰り越した予算を用いて、これらのタンパク質を購入あるいは調製する予定である。また、好中球NETosisの解析やエラスターゼによるOPG分解のキネティクス解析等の費用に充てたいと考える。
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