胎仔マウス唾液腺は、上皮と間葉との相互作用によりその発生が進行する。これまでの研究により、胎仔マウス唾液腺の組織間において、マイクロRNAが輸送されることが示唆された。すなわち、マイクロRNAも上皮間葉相互作用を仲介するシグナル分子であることが考えられた。 マイクロRNAは一本鎖の短鎖ノンコーディングRNA(ncRNA)である。一般にメッセンジャーRNA (mRNA) を標的とし、その分解を促進あるいは翻訳を抑制することが分かっている。また近年、mRNAのみならず偽遺伝子を含めた長鎖ncRNA(lncRNA)もマイクロRNAの標的となりうることが示された。lncRNAにマイクロRNAの結合する塩基配列が保存されている場合、マイクロRNAの「受け手」として機能しうると考えられる。従って、その分、mRNAがマイクロRNAによる抑制から免れやすくなる。つまり、マイクロRNA、mRNA、lncRNAといったRNAらがお互いを調節するネットワークとも言える。本研究では、唾液腺の組織間でマイクロRNAが輸送されるなら、そこには何らかのRNAネットワークがあると仮定し、その存在を明らかにすることを目的にした。 まず胎仔マウス唾液腺の組織間におけるマイクロRNA輸送を薬剤により抑制したのち、輸送先の組織を酵素処理により、唾液腺原基から分離した。分離した組織中のマイクロRNAの量がコントロールに比べて減少していることを確認したのち、RNA-seqを実施した。得られたアウトプットを用いて転写産物の網羅的解析を所属機関にて実施した。コントロールと比べて、発現レベルが上昇した転写産物(mRNA、lncRNA)のうち、マイクロRNAの標的となりうる種類をリストアップした。これらの転写産物の一部は、組織間で輸送されるマイクロRNAの制御を受ける可能性が示唆された。
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