我々は、がん幹細胞の形質維持に関連するmRNA安定化因子を検索するため、がん細胞株群のマイクロアレイ解析を行いELAVL2に注目するに至った。ELAVL2発現変化が、がん細胞動態にもたらす影響を解析するため、ELAVL2低発現株であるH1299細胞にELAVL2を導入したH1299ELAVL2を作成した。H1299ELAVL2ではELAVL2 mRNA量が約10倍、HIF1a mRNA量は7倍程度となった。H1299ELAVL2のHIF1aタンパク発現レベルは正常酸素濃度下では親株と同様であったが、低酸素濃度環境では有意に上昇した。同細胞株をヌードマウス移植するとELAVL2導入株は約3倍の腫瘍径を呈し腫瘍血管の総面積も増加していた。in vitro、in vivoにおいてELAVL2はHIF1aを介して腫瘍悪性化に関与している可能性が明らかとなった。 口腔扁平上皮がん細胞株は形態や組織像から容易に分化度を決定できること、口腔がんのがん幹細胞は未分化であることに注目し、低分化型口腔扁平上皮がん細胞株SAS と高分化型口腔扁平上皮がん細胞株HSC2 の比較を行った。HSC2はほとんどELAVL2 mRNAを発現しておらず、一方SAS株では ELAVL2はELAVL1と複合体を形成し、細胞質に局在していることがわかった。さらに、親株に比較して約5倍のELAVL2 mRNAを発現するHSC2 ELAVL2 では、 ARE 配列を有する遺伝子群の発現亢進が認められ、 中でも幹細胞性の制御に関わり3’UTR にARE を有するLin28B はELAVL2 の強制発現により発現が上昇していた。ヌードマウスに移植したHSC2 ELAVL2 では、角化傾向の低い腫瘍胞巣が多数認められ、ELAVL2 がLin28Bを介して口腔扁平上皮がんの分化に大きな役割を果たしている可能性が示唆された。
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