研究課題
小胞体タンパク質の品質管理は厳密に制御されており、小胞体不良タンパク質の蓄積は、①小胞体シャペロンの発現誘導、②タンパク質翻訳停止、③小胞体関連分解(ERAD)により減弱され、細胞は生存可能となる。しかし、何らかの原因でこれらの小胞体品質管理機構が破綻すると、不良タンパク質が過度に蓄積し、小胞体ストレス誘導性アポトーシスが惹起される。小胞体ストレスと炎症に関して、炎症組織ではサイトカインや細胞外分泌因子の産生が亢進しており、細胞は小胞体のタンパク質産生能力を高めるために、小胞体ストレスシグナルを活性化すると考えられる。このように急性炎症においてマクロファージは自ら生存・機能するために小胞体ストレス応答を活用し、一方で慢性炎症においては持続的で過度な刺激が小胞体ストレスを介したアポトーシスに繋がると考えられる。本研究では、マクロファージの分化・機能・アポトーシスの分子機構を、小胞体ストレスシグナルの観点からアプローチすることで、炎症性疾患の緩解に向けた新規分子機構の発見を目指す。具体的には、①単球からマクロファージへの分化段階、②起炎に伴う炎症組織への遊走、③Fc受容体やレクチン活性依存的な標的認識と貪食作用、④サイトカイン産生によるTリンパ球の活性化と抗原提示、⑤慢性炎症組織で観察されるマクロファージアポトーシスなど、マクロファージの一生における小胞体ストレスシグナルの関与を検討し、その分子機構を明らかにする。当該年度は、培養マクロファージを用いて上記①-⑤における小胞体ストレスの関与を検討した。また、小胞体ストレス受容体IRE1、ERAD関連分子Derlin-1、小胞体ストレス誘導性アポトーシス実行因子ASK1のKO・KDマクロファージを用いてこれらの分子の必要性を検討し、小胞体ストレスが発信する生存・機能とアポトーシスの両シグナルの炎症における重要性を調べた。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、単球細胞および初代培養マクロファージを用いて、炎症と小胞体ストレスシグナルの関係を検討することを目的とし、実際にこれらの細胞において小胞体ストレス関連分子、IRE1やDerlin-1のノックダウンやアポトーシス実行因子ASK1のノックダウンを行うことで、マクロファージへの分化や貪食作用、アポトーシスにおける必要性を調べることができたため。
次年度は、細胞を用いた解析結果の生理的検証として、KOマウスを用いて表皮あるいは口腔粘膜創傷治癒モデル実験や、マウス頬嚢部粘膜口内炎モデル実験などによる個体レベルでの評価を行う。さらに、小胞体ストレス寛解低分子化合物のスクリーニングを実施し、既に獲得しているASK1阻害剤と併せて、口腔粘膜疾患モデルでの効果検証を検討する。これらのin vitro・in vivo解析により、小胞体ストレスシグナルを介したマクロファージの分化・機能・アポトーシス制御の分子メカニズムを明らかにし、口腔粘膜炎症性疾患の克服に繋げることを目標とする。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Cell reports
巻: 13 ページ: 944-956
10.1016/j.celrep.2015.09.047
Neurobiology of Disease
巻: 82 ページ: 478-486
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