研究課題/領域番号 |
15K11085
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
瀧澤 智美 (橋爪智美) 日本大学, 松戸歯学部, 助教 (50419785)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 経口ワクチン / Salmonella / 分泌型IgA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、経口ワクチン接種時におけるパイエル板での粘膜免疫誘導メカニズムの解明である。昨今、重篤な感染症が広く蔓延し社会問題となっている。経粘膜投与型ワクチンの一種である経口投与型ワクチンはこれら感染症に対する効果的な防御手段として今後活用が期待される。より一層効果的な経口ワクチンを開発するためにも、ワクチン投与時に粘膜免疫応答が消化管でどのように誘導されているのかを解明することは非常に重要である。これまでの研究により、経口投与されたサルモネラ抗原に対する腸管のIgA粘膜免疫応答誘導にはパイエル板組織の存在が不可欠であることが分かっている。この研究結果を踏まえて、当該年度では、細胞レベルでの解析を行った。脾臓、腸間膜リンパ節、パイエル板からリンパ球を分離し、あらかじめ組換え型サルモネラを経口免疫したマウスの脾臓、腸間膜リンパ節、パイエル板からCD11c陽性樹状細胞を分離し、様々な組み合わせで共培養し、サルモネラ抗原特異的IgA抗体産生量について解析した。その結果、パイエル板のリンパ球を含んだ共培養でサルモネラ抗原特異的IgA抗体産生量の増加が認められた。脾臓、腸間膜リンパ節、パイエル板のどの組織由来の樹状細胞と共培養した場合でも、パイエル板のリンパ球を含んだ場合にサルモネラ特異的IgA抗体産生量の増加が認められた。一方で、脾臓、腸間膜リンパ節から分離してきたリンパ球を、脾臓、腸間膜リンパ節、パイエル板から分離した樹状細胞と共培養してもサルモネラ特異的IgA抗体産生は誘導されなかった。これらの結果から、サルモネラ特異的IgA抗体産生誘導にはパイエル板のリンパ球が重要である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
経口投与された組換え型サルモネラに対する腸管のIgA粘膜免疫応答誘導にはパイエル板組織の存在が不可欠であるというこれまでの申請者らの研究結果を踏まえて、本研究ではさらに細胞レベルでの解析を加えた。サルモネラ抗原特異的IgA抗体産生誘導にはパイエル板、腸間膜リンパ節、脾臓のどの組織由来の細胞が重要なのか、また、各免疫担当細胞(樹状細胞、T細胞、B細胞)の役割について解析を加えた。その結果、組換え型サルモネラに対する抗原特異的IgA抗体産生誘導には脾臓、腸間膜リンパ節由来ではなく、パイエル板由来細胞が重要であり、なかでもリンパ球が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。経口投与された組換え型サルモネラに対する腸管IgA粘膜免疫応答誘導メカニズムの解明が進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究結果を踏まえて、今後は、パイエル板リンパ球のなかでも、どのサブセット(IgA陽性B細胞、IgA陰性B細胞、CD4陽性T細胞)が主要な役割を果たしているのかについて検討を加えていく。 当該年度で問題となった点は、培養に必要な量のCD11c陽性樹状細胞をパイエル板から分離してくるのが困難だった点である。今後、IgA陽性B細胞、IgA陰性B細胞を分離してくる際にもこのような問題は発生すると思われる。各細胞サブセットの収量を高めるために、栄養リッチな培地を用いる、細胞抽出作業を手早く行う、磁気ビーズによる各サブセットの分離条件を検討するなどして、培養実験が遂行できるように逐一検討していく。 さらに、腸管IgA粘膜免疫応答誘導において重要な役割を果たす細胞サブセットが判明した場合には、他の細胞と比べてどこが異なっているのか等について遺伝子レベル、分子レベルで検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において、共培養に必要な最低量のCD11c陽性樹状細胞数を各組織(特にパイエル板)から分離する過程がスムーズにはいかず、CD11c陽性樹状細胞の効率の良い分離方法を現在も検討中である。そのため当初計画予定であった、リンパ球を各々サブセット毎(IgA陽性B細胞、IgA陰性B細胞、CD4陽性T細胞)に分けて各リンパ組織から分離精製する操作が当該年度中に完了出来なかったため、これらリンパ球サブセットを分離する際に必要となる消耗品費を次年度以降に繰り越すため。
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次年度使用額の使用計画 |
IgA陽性B細胞、IgA陰性B細胞、CD4陽性T細胞分離用の試薬一式、また、厳密にIgA陽性とIgA陰性B細胞を分離するために、フローサイトメーターを用いたセルソーティングを実施するのにかかる費用(蛍光標識抗体、FASCariaによるセルソーティング使用費等)分として次年度以降に合わせて使用する予定。 また、繰越金に加えて、当初の計画通り、次年度ではパイエル板由来の細胞の中で重要なサブセットが判明した場合には、他の細胞と比較して何処が異なっているのかなど分子レベル(蛍光標識抗体一式代、フローサイトメーター用試薬一式代)、遺伝子レベル(リアルタイムPCR用試薬一式代、マイクロアレイ用試薬一式代)で検討を行っていく。
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