研究課題/領域番号 |
15K11086
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
浅野 正岳 日本大学, 歯学部, 教授 (10231896)
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研究分担者 |
尾曲 大輔 日本大学, 歯学部, 助教 (10608699)
塩野目 尚 日本大学, 歯学部, 専修医 (10757652) [辞退]
五條堀 孝廣 日本大学, 歯学部, 助教 (10755573)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニッケル / MMP9 / IL-8 / VEGF |
研究実績の概要 |
ヌードマウス舌にヒト口腔扁平上皮癌由来細胞株HSC3の高転移株であるHSC3-M3を摂取し、1週間後に腫瘤形成を確認した。この時点で通常の水(control)または1mM Ni2+水溶液(Ni)を自由飲水させ、さらに2~3週間飼育した。マウスを安楽死させた後に舌組織を摘出し、免疫染色によりMMP9の発現変化について比較検討した。その結果、Ni群においてはcontrol群と比較して有意にMMP9発現が低下していた。これは、培養細胞を用いてこれまでに得た結果と符合するものであり、Ni2+が生体内でも効果を発揮することを示していた。そこで、同じヌードマウスモデルを用いて、腫瘍の発育状況についてさらに検索を行った。すなわち、腫瘤形成2週間後に、マウスの尾静脈に造影剤を投与し、実験動物用マイクロCTにより腫瘤の撮影を行った。するとcontrol群では、腫瘍は舌全体に広がるX線透過像として観察され、いわゆるball-in-handsの像を形成していた。これに対してNi群では、透過像中にひときわ透過性の高い領域(hyper translucent area)が観察された。同組織を摘出しHE染色標本により組織学的な比較を行ったところ、Ni群では腫瘍中に広範な壊死領域が形成されていることが明らかとなり、CT像において観察されたhyper translucent areaが壊死組織に相当することが解った。そこで腫瘍組織から得たtotal RNAを用いてreal-time PCRにより血管新生に重要なIL-8とvascular endothelial growth factor (VEGF)の発現について検索したところ、Ni群においてはこれらの因子の発現が著名に低下していることが解った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、Ni群においてMMP9発現が低下することを示し、生体内でもNiイオンの効果が発揮されることを示した。また、実験動物用マイクロCTによりball-in-hands像が確認でき、マウス舌への腫瘍細胞接種による動物実験モデルの確立もできた。腫瘍組織を用いた免疫染色や、real-time PCRによる定量など全体的に実験は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、Niイオンが転写因子NF-kappaB活性を阻害するという現象の発見に端を発している。これまでの研究から、Ni群でMMP9発現やIL-8, VEGFの発現が低下することは明らかとなってきたが、これらの変化がNF-kappaB活性低下によるものであるか否かについては、直接的に証明していない。Niイオンの抗癌剤としての臨床応用を考える際に、この点は是非とも押さえておかなければならない重要な問題であると考えている。従って、今後はNiイオンとNF-kappaBの直接的な関連についてさらに検討を加えていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の遂行に必要な物品の購入に際して、キャンペーンなどを利用することによって物品費を安く抑えることができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度への繰越金は、平成29年度の助成金と合わせて、ヌードマウスや三種混合麻酔薬、抗HMGB1抗体などの試薬の購入に、また、研究成果を論文にまとめ学術雑誌に投稿するにあたり、英文校正や論文投稿料などに充当する予定である。
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