研究課題/領域番号 |
15K11090
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研究機関 | 神奈川歯科大学 |
研究代表者 |
倉田 俊一 神奈川歯科大学, 歯学部, 特任教授 (60140901)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | p63 |
研究実績の概要 |
p63(TP63)は口腔顎顔面、咽頭、皮膚その他の外胚葉性上皮細胞の増殖と分化に不可欠である。基底層のケラチノサイト幹細胞で発現しており、扁平上皮癌の発癌過程で高頻度に遺伝子重複と高発現が見られる。TP63遺伝子にはTA型とΔN型アイソフォームを生成する二つの転写開始点があり、スプライシング様式が3種類あるため、少なくとも6種類のアイソフォームとして発現する。 本研究では口腔顎顔面・咽頭癌におけるTAとΔNの作用を明らかにするため、癌細胞におけるゲノム編集を実施している。前年度に引き続き、TP63遺伝子の重複がない細胞株FaDuを使用して、TA型の第1エクソンを標的にしたCRISPER-Cas9法による遺伝子編集を試みた。その結果monoallelic(片アレル性)のTA型p63の第一エクソンを欠失することには成功し、細胞株を得た。片アレル性の欠失細胞と親細胞の性質を比較する実験は可能となっている。しかし、欠失による効果を明確に知るためにはbiallelic(両アレル性の)編集が必要であり、種々の技術的な検討を行った。世界的に見ても癌細胞におけるTP63両アレル編集の成功例は報告されておらず、本研究でもまだ達成できていない。 一方、p63の機能解析の一助として、Wnt/β-カテニンのシグナル伝達による遺伝子発現活性化に対するp63の影響を解析した。その結果、TCF4/β-カテニンによる転写調節において、アデノウイルス腫瘍タンパク質とp63の機能的な相互作用があることを検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TA型p63第1エクソンの片アレル欠失細胞株を10以上得ることには成功した。しかし両アレル性の欠失細胞はまだ得られていない。比較的容易に片アレル性の欠失細胞が作製できるので、現段階では(a)技術的に問題がある可能性と(b)両アレル性の欠失細胞は生存能を失う可能性が考えられる。本年度実施した事項は次のとおりである。 1. ゲノム編集の実験操作の改善として、標的配列の検討、トランスフェクション法の検討、片アレル欠失細胞を親細胞とする二重トランスフェクション、などを実施した。 2. 薬剤耐性と細胞生存能とは背反する可能性があるため、ピューロマイシン耐性の濃度を詳細に検討した。 3. ゲノム編集と並行して、ΔN型p63タンパク質の機能に関する研究を進めた。HEK293細胞では、p63が持つWnt/βカテニン応答性遺伝子を抑制する効果が見られなくなることから、ΔN型p63とアデノウイルスの初期タンパク質E1AおよびE1B-55Kの機能的な相互作用を検討した。その結果、E1Aはβカテニン阻害効果を、E1B-55KのTCF4を安定化効果を示し、Wnt/βカテニン系においてΔN型p63とアデノウイルス腫瘍タンパク質が機能的に相互作用することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.標的配列、遺伝子導入と薬剤耐性細胞選択でのさらなる改良進め、両アレルの欠失に挑戦する。 2.両アレル欠失細胞が生存不能である可能性があるため、片アレル性欠失細胞と親細胞の比較実験を実施する。細胞の増殖能、分化能、浸潤能、および遺伝子発現プロファイルの変化を検出する。 3.ΔN型アイソフォームの第1エクソンを標的にしたゲノム編集を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度までに使用した遺伝子編集用プラスミドである程度の成果は得られてるが、さらに進展させるためには、使用する細胞の検討、標的配列の検討、ベクター系の検討を行う必要がある
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次年度使用額の使用計画 |
1. 扁平上皮癌細胞の入手:主としてAmerican Type Culture Collectionより、核型・遺伝子型の明確な細胞株を購入する。 2. 新たなプラスミドの入手または構築:(a)TA型TP63の両アレルの欠失のために追加的なプラスミドを設計または入手する。(b)ΔN型TP63の欠失を実施するために、新たなベクターを入手する。 3. 1,2を使用した実験に消耗品が必要になる。
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