研究課題/領域番号 |
15K11102
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井川 資英 東北大学, 大学病院, 助教 (80176065)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 歯髄 / 血流 / ヒト / レーザードップラー / 診断 |
研究実績の概要 |
本研究は歯髄血流測定専用のレーザードップラー血流計を試作し、血流測定の歯髄診断への応用の可能性を探ることである。私は既に、歯髄血流によって生じるレーザードップラー周波数シフトを、専用の周波数解析装置を用いて詳細に解析した結果、歯髄では周波数シフトが0~10kHz程度までであることを確信した。一方、比較として行った指尖などでのシフトは15KHz~20KHz程度であった。通常のレーザードップラー血流計は解析域が20KHz程度であり測定対象の流速が歯髄におけるそれよりも必要以上に広範囲であるために、歯髄血流測定には適切ではない。そこで、解析域を5KHz程度とした歯髄血流測定専用の低流速測定血流計を試作し、歯髄血流測定に有用であることを、既に報告している。 本年度は、歯髄血流によって生じるドップラーシフトのパワースペクトラム解析と血流信号の同時表示を行い、かつドップラーシフトの解析周波数帯域が可変であるといった仕様の歯髄専用血流計を試作し、その有用性を検証することを予定とした。昨年度の研究期間内では、こうした歯髄専用血流計を試作し指尖およびヒト歯髄での測定を行ったところ、指尖からはレーザードップラー周波数シフトと拍動性の血流信号の同時表示が可能であったけれども、歯髄からは明確な拍動性の血流信号を検出できなかった。この原因として、デジタル信号のサンプリング時間(100ms)は、指尖のような血流が多く、その拍動が明瞭である組織では十分であっても、歯髄のような微小血流組織では、たとえ脈動があったとしても、信号処理のためのサンプリング時間が十分でなければ、脈波の立ち上がりと降下部分の検出が不十分となり、結果、脈動の表示が不明瞭となってしまったのではないか、と考えられた。そこで今年度は、試作器を改変し、そのサンプリング時間を約1/10(10ms)まで短縮し、測定を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究予定は、歯髄専用レーザードップラー試作血流計を改変し、そのサンプリング時間を約1/10(10ms)まで短縮したうえで測定を試み、その有用性の検証を現在行なうことであった。試作機器は、歯髄血流によって生じるドップラーシフトのパワースペクトラムと血流信号の同時表示を行うものとした。その際、歯髄血流と比較対象組織の血流信号を表示するため、2chの測定および表示が同時に可能である仕様とした。また、信号のサンプリング時間は1000ms、100ms、40ms、20ms、10msまでの可変とした。さらに、ドップラーシフトの周波数帯域は0-100KHzまでの範囲が可変であるものとした。 こうした改変を試作機に行い成人の上顎中切歯で測定を行ったところ、前腕の皮膚ではドップラーシフトが30KHzまでおよんだ一方、歯髄では10KHz程度であった。また血流信号は前腕の皮膚では1.2V程度の血流信号が得られた一方で、歯髄では0.4V程度であった。また、脈派の確認は、前腕皮膚では信号のサンプリング時間の如何に関わらず明瞭であったのに対し、歯髄のそれは20msあるいは10msの場合にのみ確認可能であった。 この結果、本年度予定した試作血流計の改変は有用であり、ヒト歯髄血流の測定に十分なレベルの段階に到達できたと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に大きな変更は必要ないと考えられるので、平成28年度に行った研究を基本的に継続して行う。すなわち、歯髄専用レーザードップラー血流計の試作改良を進めながら、実際のヒト歯髄を対象として測定を行ない、従来からの歯髄臨床診断との比較を行い、歯髄診断への応用の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまで歯髄専用レーザードップラー血流計の試作改良を継続しているが、まだ改良が完遂していない。今後予定している改良点としては、ドップラーシフトの表示結果の保存、およびシフトのカットオフ値を算出および保存が可能にすることである。今年度はこうした点がまだ完了していないため、係る経費の執行も行われなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度も歯髄専用レーザードップラー血流計の試作改良を継続する。予定している改良点としては、上記のようにドップラーシフトの表示結果の保存、およびシフトのカットオフ値を算出および保存が可能なものにすることである。そのためのソフトウェアの改変の費用、更に、実際のヒト歯髄を対象として測定を行ない、測定結果に関する学会発表、および研究成果の論文投稿などにも研究費を使用する予定である。
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