今年度は、これまでドップラー血流測定には用いられていない緑色レーザーの光源としての有用性を検証することであった。緑色レーザー光は、通常用いられる近赤外レーザー光に比べ、歯質透過性が低いことが報告されており、このため歯周組織血流を反映する信号の混入が減少しS/N比の向上が可能であると考えられる。光学技術の発展により血流測定が可能なレベルのものが今年度得られたので、これを用いて測定を行ない、近赤外レーザー光との比較を行った。 測定は健康な成人の上顎中切歯を対象として行った。測定に際しては、緑色半導体レーザー光をプリズムを用いて2分し、うち一つを出力強度のモニターに用いた。他の一つは測定組織(歯髄、指先、前腕など)の照射に用いた。歯髄血流測定を光源の違い、及びラバーダムシート装着の有無のそれぞれ2つずつの因子を組み合わせた。その結果、ラバーダムシートによる血流信号の減少は緑色レーザー光では約10%程度であったのに対し、近赤外レーザー光では40%程度であった。反射光量の変化は緑色レーザー光近赤外レーザー光共にほとんど認められなかった。また、ラバーダムシートを装着して測定した場合、緑色レーザー光は近赤外レーザー光の約40%程度の大きさの血流信号を記録した。以上、緑色レーザー光を用いた歯髄血流測定が可能であり、歯周組織への光の散乱によるノイズの混入が減少することができた。 こうした結果は、緑色レーザー光を用いることで、ラバーダムシートの装着を不要にする可能性があることを示唆しており、ヒト歯髄血流の測定精度がさらに向上する可能性を確認できた。ただし、本研究で用いた光源は出力の安定性に十分満足できるレベルに達しておらず、変動がしばしば生じた。出力のさらなる安定が得られる光源を用いる必要性も示唆された。
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