研究実績の概要 |
超高齢化社会を迎えた今日、非生理的磨耗の1つであるTooth Wear(咬耗)は、日常診療で多く遭遇する。しかしながら、生理的咬耗の範疇ではなく非生理的咬耗と診断するのかどうか、治療するかどうかの判断については、客観的な基準がなく個々の医療者の主観に頼っているのが現状である。そのため修復物が早期に脱落したり、破折したりすることが多い。本研究の目的は、生理的磨耗と関連づけてTooth Wear(咬耗)による象牙質損耗への治療基準を策定する基礎的資料を得ることである。 生理的磨耗の測定:天然歯エナメル質の口腔内での磨耗量を調査したところ、3年間のエナメル質の接触滑走面の磨耗量は59~281μm、咬合力は197~850Nで、個人差が大きく、両者の間に正の相関関係を認めた。3年の期間においては磨耗量が経時的に直線的に増加する傾向を認めた。 Tooth Wear(咬耗)による象牙質露出の疾病構造を調査したところ、被験者の現在歯数は24~30歯の被験者(観察対象歯は16~30歯)の象牙質露出歯の保有率は90%であった。20歳・30歳代ですでに象牙質露出がみられた。象牙質露出は前歯からはじまり、臼歯へと拡大する傾向があると推察された。年齢と象牙質露出率との間で相関が認められた(r=0.61、無相関の検定p=0.005)が、咬合力(417~1,641N)および咬合接触面積(11.8~51.9mm2)は、いずれも象牙質露出率との間にほとんど相関は認められなかった(r=0.18, p=0.445) (r=0.21, p=0.368)。各被験者における咬合面または切縁の象牙質露出率および被験者平均Tooth Wear Index(Fares J, et al: Caries Res 43(2): 119-125, 2009)による解析でも同様の傾向がみられた。
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