歯を削る治療を受ける患者は歯科ドリルからの音を耳から聞く気導音だけではなく、歯から伝わる骨導の音としても知覚している。歯科治療中の患者の不快感を軽減させるデバイス開発のためには、耳の周囲での歯科ドリル音の音圧や周波数特性を把握した気導音に対する対策と、歯を介した骨導音の知覚特性を明らかにしての骨導に対する対策が必要である。前年度に引き続き、歯科治療時の患者頭部周囲の周波数帯域ごとの音圧分布を計測し、得られたデータを用いて可視化を行った。さらに、歯科ドリル音の周波数帯域の違いによる行動への影響を評価した。具体的には、国際規格に準じたHATS(ダミーヘッド)とヒトの聴力特性を有する人工耳を用いて人工口から放射する切削音の周波数毎の音圧分布を可視化し、診療台上で治療を受けている状況での歯科ドリル音の音響特性測定および周波数帯域毎の拡散レベルを把握した。また、不快の閾値の評価実験を聴力のよい小児を対象とした行うのは難しいため、聴力特性が解明されているマウス(人間と似た聴力特性を有する)を用いた動物実験での歯科ドリル音聴取時の行動解析実験を実施した。その他、研究期間中に、聴力検査に用いられる骨導振動子を改良し前額部および前歯に圧接し周波数毎の歯を介する骨導知覚レベルを測定した。被験者の歯ぎしり音を前額部に圧接した骨導マイクロホンおよび気導マイクロホンで同時収録するシステムを構築し、歯から骨を伝わる音の周波数成分および知覚特性をより深く検討し成果発表を行った。これらの成果は効果のある不快感低減デバイス開発に有用な情報としていかされた。
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