本研究では、歯髄炎の病態形成におけるTh17細胞の役割に着目し、これまでに歯髄組織の再外層に位置する歯髄構成細胞である象牙芽細胞に焦点をあて解析を進めてきた。前年度までにTh17細胞から産生されるインターロイキン(IL)-17は、象牙芽細胞様細胞として樹立されたラットKN-3細胞に対して、Th17細胞と密接に関連するケモカインであるCCL20産生誘導を増強させることを報告してきた。最終年度は、IL-17により活性化増強されたKN-3細胞に対するカテキンの反応性について検討した。その結果、代表的なカテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)は、KN-3細胞におけるCCL20産生を抑制することが示された。 研究期間全体を通して、1)歯髄炎組織においてIL-17発現の上昇が認められること、2)炎症状態を想定した細胞レベルの研究において、KN-3細胞を用いたときのIL-1によるCCL20産生をIL-17が増強させること、3)KN-3細胞に対しIL-1とIL-17による共刺激を行ったときの細胞内シグナル因子のリン酸化を解析し、IL-1単独刺激の場合と比較したところ、MAPキナーゼのERKならびにp38MAPKのリン酸化が亢進されていること、4)EGCGはKN-3細胞におけるCCL20産生を抑制することが明らかとなった。 以上の結果より、IL-1刺激によってCCL20産生が誘導されたKN-3細胞に対し、 Th17関連サイトカインであるIL-17が上記シグナル伝達経路を介してその産生誘導を増強させることが示され、歯髄炎局所の病態形成におけるケモカイン産生調節や細胞浸潤にIL-17が関与している可能性が示唆された。また、EGCGによりKN-3細胞からのCCL20産生が抑制されたことから、EGCGによる抗炎症作用を期待した新たな歯髄炎の治療法へ結びつく可能性が示唆された。
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