研究課題/領域番号 |
15K11117
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
湯本 浩通 徳島大学, 病院, 講師 (60284303)
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研究分担者 |
松尾 敬志 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 教授 (30173800)
中西 正 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 准教授 (00217770)
平尾 功治 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(歯学系), 助教 (00581399)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 象牙芽細胞 / 自然免疫 / 遺伝子発現 / ケモカイン / ポリフェノール |
研究実績の概要 |
1.象牙芽細胞様細胞株(KN-3細胞)において優位に発現している自然免疫関連レセプターであるNucleotide-binding Oligomerization Domain (NOD)1を介して、そのLigandであるiE-DAPやTNF-a刺激は、歯髄の急性炎症状態で発現が増強するinducible Nitric Oxide Synthase (iNOS)のmRNA発現を誘導した。 2.iE-DAPにより発現誘導されたiNOSは、Polyphenol類のEpigallocatechin-3-gallate (EGCG)やCaffeic Acid Phenethyl Ester (CAPE)によって、有意にその遺伝子発現が抑制された。 3.iE-DAPやTNF-aで刺激すると、自然免疫関連受容体Macrophage inducible C-type lectin (Mincle) のmRNA発現誘導が認められた。また、 Mincle特異的ligandであるTrehalose dimycolate (TDM)でKN-3を24時間刺激し、PCR arrayを用いて炎症性mediatorsのmRNA発現levelを解析すると、CCL4のmRNA発現誘導が認められた。さらに、iE-DAPでKN-3を24時間刺激後、TDMで4時間追加刺激すると、CCL4 mRNAのさらなる発現増強が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
歯髄組織の中で、齲蝕関連細菌等の刺激に対して最前線に位置する象牙芽細胞は、特に歯髄炎の発症メカニズムや感染防御において重要な役割を果たしており、歯髄内でも線維芽細胞とは異なる役割を担っていると考えられる。象牙芽細胞に優位に発現している自然免疫間レセプターであるNOD1の特異的LigandであるiE-DAPや炎症性サイトカインであるTNF-a刺激が、Mincleの発現増強し、さらに発現誘導したMincleが、ケモカインであるCCL4の発現を誘導するという機能も確認された。Mincleは、主にマクロファージに発現し、細胞にストレスがかかると誘導され、カンジダや結核菌の構成成分を認識する他に、感染等により壊死に陥った細胞から放出される核内タンパク質SAP130 (Spliceosome associated protein 130)も認識して炎症性サイトカインやケモカインの産生を増強する。すなわち、組織がダメージを受けた際の死細胞の除去とともに組織の再構築や修復の観点からも注目を浴びている。歯髄炎では、その早期に歯髄組織内の細胞が壊死に陥る事からも、歯髄炎の進行あるいは修復・治癒過程にMincleが関与している可能性が考えられ、さらに、これらの分子の発現が、エピジェネティクスや転写後発現調節を受けると、歯髄炎の病態に影響が及ぶと考えられる。Mincleが、歯髄炎の修復あるいは治癒過程のどちらに大きく関与するかを解明する事は、歯髄炎の抑制や歯髄温存さらには石灰化療法の開発に繋がる可能性がある。 当初の研究実施計画と以上の結果を考慮すると、おおむね順調に研究は進展していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
1. 石灰化誘導培地中での象牙芽細胞様細胞株(KN-3細胞)の自然免疫関連レセプターを介するmRNAやmiRNA発現を網羅的に解析を行い、その後、real-time PCRにて、より詳細に定量解析を行う。 2. iE-DAP刺激により発現誘導されたMincleの発現誘導に対するPolyphenolの効果を調べ、さらにPolyphenol処理によるmiRNA発現の変化を網羅的に解析する。 3. 石灰化誘導環境下において、iE-DAPやTNF-a刺激、さらにはPolyphenol処理により、石灰化や再生に関与する遺伝子群の発現を解析し、非石灰化環境下の場合と比較検討し、歯髄温存・石灰化療法に有望な条件・遺伝子を探索する。 4. 臨床サンプルとして、智歯や便宜抜髄さらには不可逆性歯髄炎にて抜髄となった歯髄組織から蛋白やtotal RNAを抽出して、mincleの発現や産生を調べると共に、DNAメチル化やヒストンアセチル化も解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、培地や汎用試薬に加えて、real-time PCR試薬やELISA Kitが、昨年度使用後も残っていたために、それらの新規購入が計画当初より少なく、研究費の繰り越しが生じた。また、DNAメチル化等の解析に先駆けて、新規の自然免疫関連セプターであり、組織がダメージを受けた際の死細胞の除去とともに組織の再構築や修復の観点からも注目を浴びているMincleに着目して解析を行った事からも研究費の繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、象牙芽細胞様細胞株(KN-3細胞)の培養において、石灰化環境下での培養条件を追加して解析を行い、新規の歯髄温存・石灰化療法の開発に有効な環境因子や遺伝子群の同定を行うという研究へ更に推進させるために、この繰り越し分と次年度の研究費を使用する計画である。さらに、次年度は、引き続いて臨床サンプルとして、智歯や便宜抜髄、さらには不可逆性歯髄炎にて抜髄に至った歯髄組織を用いて、歯髄組織の加齢変化を解析する試薬が必要となる。また、学会や論文での研究成果の発表も今年度よりも積極的に行う予定であり、これらの事項にも繰り越し分と次年度の研究費を使用する予定である。
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