研究課題/領域番号 |
15K11130
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
村山 良介 日本大学, 歯学部, 専修医 (70706811)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | OTDR / OCT / 初期う蝕 / 再石灰化 / 光診断 |
研究実績の概要 |
本研究は,光干渉断層画像法の原理を応用して試作した一次元OCT装置の信号強度分布機能を使い,歯質の表層下脱灰部を検出するものである。エナメル質表層の初期脱灰部位はホワイトスポットとも呼ばれ,エナメル質表面の白斑として出現する。その組織学的な特徴は,脱灰により崩壊したエナメル質の構造が光学的特性の変化を伴う,すなわち屈折率の差によって白色を呈するものである。そのため本実験で用いる近赤外線による光学的検出方法が最も適している。 本年度の計画は得られた信号強度分布およびピーク波形を解析,定量化を行い,脱灰および再石灰化における経時的変化を比較,検討することと,1/e2幅を応用することによって表層の信号と深部の信号を分離し,初期齲蝕の表層下脱灰の程度を非破壊的に検討するものである。現在までの研究によって,信号強度分布強度のピーク波形は基底部の幅が広がる結果が得られている。一次元OCTの信号強度分布は1/e2幅を用いることによって基底幅の増減を定量化することが可能である。このことは,本実験装置の分解能である10μmオーダーでの深さ方向への脱灰の程度を検出することが可能となる。また,本実験で用いた試作装置のプローブは先端が約1mmであるため,歯質表面に接触させ,走査することによって脱灰部位の特定が可能である。実験で得られた結果では,人工初期う蝕を作成した部位の信号強度分布波形は,健全部に比べ1/e2幅が有意に広がる結果が得られた。このことは,脱灰部位をプローブで検出することが可能であることを示唆している。この原理を応用し非侵襲的手法による初期齲蝕の検出評価法を確立することは,臨床における新たな手技の確立としても非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画である信号強度分布の数値解析における結果を①信号強度分布およびピーク波形の解析②定量化③1/e2幅の測定において示す。実験はウシエナメル質表面に乳酸脱灰二層法を応用して人工初期う蝕部位を作成し,健全部位と比較したものである。①においては,人工初期う蝕部部から得られた信号強度分布は健全に比べ,ピーク波形が鈍くなる傾向が得られた。すなわち,最大値は低下し,基底部の幅が広がる傾向であった。②における定量化においては,数値解析用ソフトウェアを用い最大値の変化量はdBで表現した。比較を行った結果,人工初期う蝕部位と健全部では約20dBの有意な差を認めた。③における結果ではピーク波形の最大値から,その強度の86.5%が含まれる点における基底幅を1/e2幅として計測を行った。結果は人工初期う蝕部位と健全部では約20μmの有意な差を認めた。これらの結果は,人工初期う蝕部位のエナメル質と健全部の光学的特性を示すものであった。すなわち,乳酸によって崩壊したエナメル質構造は,健全部に比べ屈折率が異なるため,信号強度分布に差が生じたものであると考えられる。これらを定量化することにより,崩壊したエナメル質の部位を検出するための基礎的データの収集が可能であった。これらの結果は,試作したプローブによって脱灰部位をスキャンすることによって,初期脱灰病変部を検出することが可能であることを示唆している。すなわち,健全部と初期脱灰部を,非侵襲的な手法を用いて明確に診断することが可能であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における今後の推進方策としては,Minimal interventionに基づく診断方法および手技の確立を視野に入れた実験の推進である。すなわち,実質欠損を認めない非う窩性病変に対する再石灰化療法において,本試作装置の有用性を検証するものである。実験方法としては,人工初期う蝕部位に再石灰化剤を適用し,その信号強度分布を解析することによって,初期脱灰病変部の基質的変化を非侵襲的手技によって検討する。具体的な方策としては,①人工初期う蝕部位を作成する②再石灰化前年度までに得られた人工初期う蝕と健全部の信号強度分布データを元に,再石灰化剤を適用したエナメル質の分析を行う。これまでの実験では,再石灰化が認められたエナメル質は,脱灰および健全なエナメル質に比べ信号強度分布が異なることがわかっている。これらの差を定量化し,脱灰の進行を評価することによって,臨床における介入時期の診断の指標となり得ると考える。さらに,再石灰化部位における経時的変化を本試作装置を用いて観察することが可能である。さらに,エナメル質の表面性状の経時的変化はレーザ顕微鏡を用い,脱灰前後及び再石灰化処置後を比較する。得られた表面性状を一次元OCT装置の信号強度分布と相補的に検討することによって,脱灰と再石灰化のメカニズムをより詳細に知ることができると考える。このことは,非う窩性病変の臨床的介入指標の基礎的なデータとして非常に重要であると考える。
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