研究実績の概要 |
今年度は、感染歯髄へのMTA直接覆髄実験を行った。深麻酔下にて6週齢ICRマウスの上顎第一臼歯咬合面に1級窩洞を形成し歯科用実体顕微鏡にて露髄を確認後、24時間口腔内環境に露出させ、歯髄感染モデルを作製した。窩洞内の残渣を除去・洗浄後、MTA、水酸化カルシウム製剤を露髄面に貼薬後、グラスアイオノマーセメント(GI)にて仮封した。対象群としてGIで仮封を行った。術後1、2週間で深麻酔下にて固定し、その歯髄治癒過程をHE染色, 抗nestin・抗OPN・抗Ki67抗体による免疫組織化学、TUNEL法にて解析した。MTA群では、窩洞直下歯髄組織の炎症が軽度であるが、水酸化カルシウム製剤群、GI群では歯冠部歯髄の強い炎症性細胞浸潤が認められた。Nestin染色においてはMTA群では術後1週間後より髄床底から歯根において陽性所見が認められた。水酸化カルシウム群、GI群では術後1週間で歯根下部1/2にnestin陽性細胞を認めた。TUNEL染色においてはMTA群では術後1週間において歯髄組織内に陽性細胞が認められたが、術後2週間後では陽性所見は認められなかった。水酸化カルシウム製剤群では術後1週間において窩洞周囲歯髄組織に多くの陽性細胞が認められ、術後2週間後には歯冠から歯根にその範囲が拡大していた。GI群は歯冠部歯根部歯髄組織内に多数の陽性所見が認められた。上記の結果より、MTA群では水酸化カルシウム製剤群に比べ歯髄へのダメージが限定的で歯冠部歯髄組織が治癒するのに対し、水酸化カルシウム製剤、GI群では歯冠部歯髄広範な壊死層が認められた。以上より、MTAは、感染を伴う直接覆髄に用いる生体機能性材料として有用であることが示唆された。しかしながら、GI群でも歯髄治癒が認められたことから、本実験の感染の程度が弱いことが予想され、より長時間の感染モデルでの検証が必要であると考えられた。
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