研究課題
近年のCAD/CAM技術の発展に伴い、義歯床材料にはレジンや金属材料だけでなく、ジルコニアを用いることが可能となった。義歯床材料は、その生体安全性(非毒性)が担保されているのは当然であるが、細胞生物学的には口腔粘膜細胞は材料に接することで各材料に特有の増殖因子を産生するのも事実である。また、骨免疫学の観点から考えると、これら産生物に破骨細胞を刺激する因子が含まれていれば、粘膜直下に存在する歯槽骨を吸収に導く可能性がある。本研究の目的は、義歯床材料の違いによって口腔粘膜細胞が産生する因子の違いを明らかにし、顎堤吸収に関わる因子が、義歯床材料に特異的に誘発される可能性を検討することである。本研究で得られる知見は、顎堤吸収を惹起し難い義歯床材料のあり方を提案する基盤になるものと期待される。特に義歯床は、クラウン・ブリッジとは異なり、直接的に口腔粘膜に常時接しており、接触界面には力学的刺激も0加わるため、ジルコニア材料が口腔粘膜細胞のサイトカイン、増殖因子産生に影響を及ぼす可能性は十分に考えられる。平成27年度の計画は、義歯床材料を用いたディスク試料の作製である。ナノジルコニア、純チタン、コバルトクロム合金、義歯床用レジンディスク試料を培養容器の直径に合うように歯科用CAD/CAMシステムを用いて作製した。試料表面は、粗研磨後に粒度#1000の研磨フィルムで仕上げ研磨し、可及的に表面形態を同一にした。次に、培養皿上に各ディスク試料を静置し、その上でヒト口腔粘膜細胞(歯肉繊維芽細胞あるいは歯肉上皮細胞(研究室保有)を培養し、24~72時間後に培養上清を回収する。回収した培養上清の存在下で破骨細胞および骨芽細胞の培養を試みた。
4: 遅れている
義歯床材料を用いたディスク試料の作製にあたり、歯科用CAD/CAMシステムを用いてナノジルコニア、純チタンの試料を作製した。同様に、コバルトクロム合金、義歯床用レジンディスク試料を培養容器の直径に合うように作製した。試料表面の研磨について、粗研磨後に粒度#1000の研磨フィルムによる仕上げ研磨を予定したが、前者3つの試料は、非常に硬く、予想以上に研磨の工程に時間が割かれた。レジンディスク試料は気泡の埋入抑制に工夫を要した。義歯床材料が誘発した口腔粘膜細胞の産生物が破骨/骨芽細胞に及ぼす影響の検討については、培養皿上に各ディスク試料を静置し、その上でヒト口腔粘膜細胞(歯肉繊維芽細胞あるいは歯肉上皮細胞(研究室保有)を培養し、24~72時間後に培養上清を回収した。この回収した培養上清の存在下で破骨細胞および骨芽細胞の培養を試みたが、各義歯床材料の接触刺激によって誘発される口腔粘膜細胞のサイトカイン・増殖因子の産生があきらかではなかった。
研究計画でも予想されたことではあったので、培養容器に口腔粘膜を培養し、同一質量の各義歯床材料ディスク試料を細胞上に静置し、義歯による圧縮刺激を与える実験系に組み立て直した。現在、床材料としてジルコニアの場合の培養を進めているところである。今後は、義歯床材料の圧縮刺激によって、口腔粘膜細胞から誘発されたサイトカイン・増殖因子の同定を行う。各義歯床材料について上記で得られた培養上清を用いて免疫系に関与するサイトカインを同時に定量できる抗体アレイで培養上清中のサイトカインを検出する。検出されたタンパク質については、Real-time RT-PCR解析を用いて遺伝子レベルでの発現量も確認する。次に特定されたサイトカイン・増殖因子が破骨/骨芽細胞に影響を及ぼすか否か検討する。特定された因子のリコンビナントタンパク質を添加した培養液中で破骨細胞前駆細胞株を培養し、分化の程度は上述と同様の方法で判定する。またヒト骨髄由来間葉系幹細胞(研究室保有)を培養し、骨芽細胞へ分化誘導する。骨分化程度の判定は上述の同様の方法で行う。
予測された義歯床材料を接触させた条件下では、接触刺激で誘発される口腔粘膜細胞のサイトカイン・増殖因子の産生が明らかでなかったため、実験系の立て直しを行った.そのため予定したサイトカイン・増殖因子の解析に至らなかったため、試薬の使用量などが少なかった。
圧縮刺激を加えた新しい実験系で、義歯床材料の違いによって口腔粘膜細胞が産生する因子の違いを明らかにし、産生した因子の中から骨芽細胞、破骨細胞に影響を及ぼす因子を同定する。計画書に従い、関連試薬および抗体アレイ等を購入し、実験を進める。次に検出されたタンパク質については、Real-time RT-PCR解析を用いて遺伝子レベルでの発現量も確認する。この際、PCR関連試薬を購入し、実験を進める。
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J Dent Res
巻: 95(1) ページ: 110-118
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