本研究では,ノンメタルクラスプデンチャーの診療ガイドライン作成に必要な科学的根拠を確立することを目的としていた.大学附属病院に来院した部分歯列欠損を有する被験者を対象として,メタルクラスプを用いた従来のパーシャルデンチャーを製作するグループ,または熱可塑性樹脂を用いたノンメタルクラスプデンチャーを製作するグループに無作為に割り付けた. 義歯治療の前後に,患者報告アウトカム,口腔機能,歯周組織の状態を評価した. 研究の結果,両群ともに義歯の状態に問題は発生することなく経過は良好であった.レジンクラスプの破折は生じなかった.治療効果に関して,ノンメタルクラスプデンチャーの口腔関連QoLと義歯の総合的な患者満足度,審美性の評価はメタルクラスプデンチャーよりも高かった.また,咀嚼能力については両義歯に差は認められなかった.義歯の支台歯の状態に関して,どちらの義歯においても義歯装着後にはプラークの付着度がわずかに増加する傾向が認められたが,歯周ポケット深さには大きな変化はなく歯肉の炎症は軽度に保たれていた.支台歯の臨床的動揺度について両義歯に差は認めなかった.これらの結果から,患者の口腔清掃の状態が良好に保たれていれば,ノンメタルクラスプデンチャーのレジンクラスプが支台歯の歯周組織に対する歯周病のリスクは限定的であると考えられた.一方,口腔関連QoL,患者満足度,審美性をアウトカム指標としたノンメタルクラスプデンチャーの費用対効果は,メタルクラスプデンチャーよりも劣っていた.これは,メタルクラスプデンチャーは,レジン床義歯において歯科医療保険給付の対象になるが,メタルクラスプデンチャーの治療費は私費診療であることが要因として考えられた.以上,本研究から,メタルクラスプデンチャーに対するノンメタルクラスプデンチャーの治療効果の優位性が明らかとなった.
|