実験的に嚥下時の舌と口蓋の接触を阻害した有歯顎者モデルに対し,それを補償するためのPAPを製作し,舌機能とPAPの形態についての関係を調べることを目的とした。 実験用スプリントを装着し、10 mm咬合挙上した状態で,形成タスクを経て、実験用PAPを製作した.完成したPAPは,光学スキャンした後に三次元形態分析ソフトウェアで相同モデルを作成し,PAP形態についての主成分分析を行った.併せて、嚥下時の最大舌圧、嚥下時間を舌圧測定システムで測定した. 何も装着しない状態と比較して、咬合挙上用スプリント装着時では,最大舌圧の減少,嚥下時間の延長が認められ,スプリント装着による嚥下機能の低下が確認できた.次いで実験用PAPを装着することで,ほとんどの被験者で舌圧の増加および嚥下時間の短縮の傾向がみられた。主成分分析では,第1主成分は口蓋高さ、第2主成分は正中部の厚み,第3主成分は前方部の豊隆,第4主成分は全体の厚み,第5主成分は側方部の厚みであると推定された。第3主成分であるPAP前方部の豊隆と第5主成分である側方部の厚みに,嚥下時最大舌圧との相関がみられた.PAP前方部の豊隆が大きいほど舌圧が小さく,豊隆が小さいほど大きな舌圧を示していた.また,PAP側方部の厚みが厚いほど舌圧が小さく,厚みが薄いほど大きな舌圧を示していた.更に,PAP前方部の豊隆や側方部が薄い者は,PAP非装着時でも比較的大きな舌圧を有している傾向があり,あまり厚みを足さなくても十分に嚥下機能を回復できていたと考えられた.一方,豊隆や側方部が厚い者はPAP非装着時も比較的舌圧が小さい傾向があり,前方部の豊隆や,側方部の厚みを大きくすることで,舌圧を補償していると考えられた.以上より舌圧の低下とPAPの形態は密接な関係があり、舌圧が小さいほど、より厚みを必要とするPAPの作用機序が示された。
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