マウスケラチノサイト株Pam2.12およびヒトケラチノサイト株HaCaTをニッケル(Nickel;Ni)で刺激して24時間後のTSLP発現を観察すると,どちらの細胞株もTSLPの発現増強を認めた.そこでPam2.12にTSLP siRNAを導入してTSLPの発現を減弱した後,Niで刺激すると,MAPキナーゼの中でも特にp38の発現の減弱を認めた. 樹状細胞(dendritic cells; DC)をNiで刺激するとTSLPRの発現が増強し,p38およびGプロテインRhoA,Rac1の発現増強を認めた.そこでケモタキシスアッセイにより,TSLPを加えて培養したDCのNi刺激に対する遊走能の変化を観察したところ,アッセイ開始から6時間から12時間の間に,Ni刺激群において遊走したDC数の増加を認めた.いくつかの金属を染色する蛍光色素NewportgreenはNiも染色することで知られているが,TSLPを加えてからNiで刺激したDCをNewportgreenで染色した後,マウス皮下に投与して,24時間後の頸部リンパ節に含まれる細胞をフローサイトメーターで解析したところ,CD11c/FITC (Newportgreen)ダブルポジティブの細胞群の軽度上昇を認めた. 次にDCにTSLPR siRNAの導入を試みたが,導入効率が悪かったため,TSLPR siRNAをマウス皮下に注入するin vivo実験で検討することにした. TSLP siRNAをすでにNiで感作しているマウス耳介皮下に投与し,3日後,アジュバントと共にNiを耳介皮下に投与してアレルギーを誘導したところ,耳介皮膚の腫脹は有意に減弱した.同様に,TSLPR siRNAを耳介皮下に投与した後にアレルギーを誘導したところ,皮膚の腫脹はわずかに減弱する傾向がみられた. in vitro,in vivoの結果を合わせると,ケラチノサイト上のTSLP とDC上のTSLPRの相互作用がNiアレルギーの惹起において重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
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