エピテーゼは,腫瘍などにより生じた顔面を含む実質欠損に対する補綴装置である.エピテーゼは通常,従来の印象法または3Dスキャンによって得られた静止状態の無表情の模型上に製作される.しかし,顔面は様々な表情を持つため複雑に動くという特徴があり,エピテーゼの辺縁部分を可動部に設定しなければならないことが多い.そのため,顔面表情の変化に伴いエピテーゼの辺縁が浮いてしまうことが問題となっていた.そこで,辺縁の浮き上がりを補償するため,顔面表面の変形量を想定して作業用模型におけるエピテーゼの辺縁相当部を削合する方法が提案された.しかし,顔面の複雑な動きを予想し削合することは困難であり,適応症例も限定されていた.そこで我々は,「顔面の動きを再現した模型上に製作されたエピテーゼは,表情変化に対応できるように設計でき,エピテーゼの適合性が向上するため,辺縁が浮いたり脱落したりしてしまう危険性が下がるのではないか」という仮説を立てた. 健常者8名に対して3Dスキャナを用いて無表情時および笑顔時の顔面形状を採得し、あらかじめ作成したテンプレートモデルを用いて相同モデルを作成した.相同モデル同士をモーフィングすることにより三次元顔面表情運動モデルを完成させた.完成した三次元顔面表情運動モデルの精度を評価したところ,モデルの精度・再現性が確認されたため,エピテーゼ製作への有用性について評価を行った.エピテーゼ製作には,顔面に欠損を有する患者8名に対し,顔面表情運動モデルを用いてエピテーゼを製作し,表情運動時の適合について評価した.顔面表情運動モデル上で製作したエピテーゼは、従来法の静止状態で得られた模型上で製作したエピテーゼに比較し,高い適合が得られ,顔面表情運動モデルがエピテーゼ製作に有用であることが示された.
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